1988 FERRARI 412

エンジンがかからなくなったフェラーリ412が入庫しました。デイトナとおなじ12気筒エンジンをフロントに積んだ4シータークーペです。濃紺のメタリックボディにベージュの内装が素敵です。

今回はとりあえず動くようにするのが目的です。

エンジンに生ガスを吸わせてクランキングしたところ、エンジンはかかるようなので、燃料ポンプ系統だと思われます。

「さて、燃料ポンプはどこ?」

燃料ポンプはトランク内にあるようです。しかし、シフトレバー脇にあるボタンを押してもトランクが開きません。助手席の足元のリレーやヒューズを調べています。(他にもトラブルがありそうです)
バッテリーが上がったらトランクが二度と開かなくなるなんて(いくらフェラーリでも)考えにくい。以後、わたしとメカニックさんとの会話です。「非常用のヒモとかあったりして」「そういえば運転席の下にヒモがあったな」「あ、それはボンネットのフックにつながってますね」「だったら、あ、これか!」

左リアシートの脇にトランクオープナー(黄矢印)がありました。

トランクの底に燃料タンクが作りつけてありました。どうやらアルミ製のようです。追突されたら一巻の終わり? 黄矢印が燃料ポンプです。

リアスピーカーの配線が余っています。あとでいじったのでしょうか。

燃料ポンプは左右2個あり、右側にフロートが隣接しています。調べてみたところ、ポンプまで電気は来ているのに作動しません。左右とも交換する必要があります。

トランク中央はそもそもスペアタイヤの収納スペースだったようです。

取り外した燃料ポンプ。ポンプ本体は防振ゴムで包んであったらしく、ゴムがドロドロのタール状になっていました。
古いポンプとプラグ12本です。
リフトで上げた様子を前から写したところ。黄矢印がオイルパンです。フレームに載っているのでエンジンは上に吊り上げるしかありません。左右から茶色いエキゾーストパイプがそれぞれ6本ずつ出て、3本ずつまとめられて、テールには4本のマフラーが出ています。
エンジンがかかると迫力のある排気音とエンジン音が響きます。全体の佇まいからは想像できません。アクセルを吹かすとブォン、ブォン〜。412にはセルフレベライザーという機能がついていて、ボディを水平に保とうとします。ふたりがトランクに座った重みで下がった車高がじわーっと上がってきます。なんだかシトロエンみたい。

ガレージレポートの締めくくりに助手席試乗することにしました。日が暮れて雨が降っていましたが、Eワヤマさんと星が丘のドコモショップまで片道約3kmです。

大柄なボディだけあって車内はゆったりしています。ヘッドライトもちゃんと点いて出発。走り出してしばらくするとATがシフトするのがわかります。フェラーリにごくふつうのATって違和感があります。走っている感じはまるでアメ車のよう。どうもピンと来ません。それはともかく、Eワヤマさんは「これは直感なんですけど、このクルマはあまりいい感じがしません。もしも火が出たらすぐにシートベルトを外してドアを開けてくださいね」。(おいおい)

ドコモショップを出ると窓がすっかり曇ってしまっていました。ベンチレーションも効果なし。「昔のクルマはみんなこうだったんですよね」「ええ、わたしもローバー・ミニで経験しました(苦笑)」。視界が悪くても器用に運転します。もうすぐLUSSOに着くというときになにやらボンネットから煙が。わたしは水蒸気かと思ったのですが変な匂いがします。エンジンを止めて急いで下りて前に回ると、雨で濡れたせいか、じきに煙は収まりました。左ヘッドライトの配線が焼けたようです。場合によっては燃えたかもしれなかったわけで危なかったです。

翌日のこと。電動ファンの配線がショートしていたこともあって、左ヘッドライトの裏の配線はすべて引き直しました。ところが、その後エンジンがかからなくなり、ヒューズボックスの接触不良を直し、次はエンジンが切れなくなり、イグニッションスイッチが壊れました。頭の痛いクルマです。どこまで手をかけるかはオーナーの方とのご相談です。

最後にEワヤマさんの総括です。

結局、通常の412が失火する恐れのある構造のクルマではなく、この個体に問題があったことをオーナーに質問して確認しました。購入後に調子を崩して電気系統を出張で直してくれる修理工場に依頼し、修理をしたとのこと。原因はその際の修理にありました。
短絡につぐ短絡、まとめてはいけない部分を束ねて、場所を考えない配線。仮にエンジンが調子よく動いていたら間違いなく失火して、場合によっては全焼もありえたのではないかと思うとぞっとします。今回、虫の知らせのような自分の直感には感謝しつつも、改めて「自動車を取り扱うことの責任」を強く認識しました。
誰のためでもない、自分のクルマのための整備です。とくに少し古い個体を扱うたびにその重要性を感じます。「ガレージレポート」がそんな意識を(年式を問わずに)大切にするきっかけになることを願っています。