1997 FERRARI F355

F355の納車整備の依頼を受けました。お客様とのお話し合いにより「きっちりやってください」というご要望のため、エンジンを下ろして整備します。文字通り「リセット」です。
明るくて快適な室内。わたしは355のハンドルは握ったことがありませんが、パワステになって楽になったとか。たしかに328のステアリングは重くて、涼しい顔して車庫入れなどできません。この355はいわゆるXRシャーシの後期型。距離は2万kmちょっとですが、前オーナーはあまり回していなかったらしく、吹け上がりがいまひとつ。それも整備の課題です。
フロントのボンネット内にあるヒーター補助ポンプからクーラントが漏れて白くなっています。これは対策部品へ交換します。
リアのエンジンフードを開いたところ。いちばん奥(前)にエンジンがあります。ボディに傷がつかないように(青い)保護フイルムを貼りました。
下回りのパネルを外しました。エンジンのうしろにミッション、そのうしろにクラッチがあります。円筒状に手前に突き出しているのがクラッチです。
真下からエンジンを見上げたところ。オルタネータ等の補器類とベルトが見えます。写真上の銀色の箱はガソリンタンク。右上に映っている丸いものが燃料ポンプです。
右リアタイヤハウスの前側にラジエターとオイルクーラーがあります。
シフトリンケージ(黒いシャフト)がフレームやエンジンを貫通しているので、エンジンを下ろすにはリンケージを外す必要があります。脱着には細心の注意が必要だとか。ちょっとでも位置がずれると、あとで苦労するそうです。
左リアから見たところ。金色のマフラーと赤いカムカバーが見えます。
右リアから見たところ。
リアバンパーを外しました。

バンパーの内側はすぐマフラーなので、フェラーリに追突するとマフラーからエキマニまで全部壊れてしまいます。修理費用を聞いたら倒れそうになります。車間距離を十分取りましょう。

インテークが外れてエンジン本体が見えてきました。中央むこう側の黒い筒がパワステタンク、手前の黒い筒はオイルフィルタです。リアサスペンションのストラット部分に赤い筒が見えるのは、固さを調節する電子制御装置だそうです。
8連スロットルのアップ。中央の金具にワイヤーがかかってアクセルと連動します。その金具の下を通っている黒い筒はトランスミッションオイルヒーター(クーラー)だそうです。ミッションオイルが冷えているときはヒーターになり、熱くなるとクーラーになるとか。要するに一定の範囲内の温度に保とうとするわけですね。
自称「フェラーリに乗る男」。エンジンルームに乗る人ってめずらしいかも。

こうして部品やパイプ、コネクタなど外していきます。外すだけならともかく、これをあとでちゃんと戻せるというのが不思議。

マフラーが外れて、真後ろからクラッチが見えるようになりました。
フェラーリのこんな姿を見ることは滅多にありません。
右フロントブレーキ部分です。フロントグリルから取り込んだ空気がローターの背後に当たるようになっています。
外した部品置き場。

このあと(2日目の夜)エンジンが下りました。どうもわたしは決定的瞬間に立ち会えないようです。

翌朝、エンジンは馬に載せられていました。

ボディはエンジンを下ろして軽そう。こうなったときにリフト上でバランスを崩さないように最初から前輪も外してあるそうです。

エンジンをうしろから見たところ。
エンジンを前から見たところ。タイミングベルトのカバーが外れているので 2本のベルトがよく見えます。
がらんとしたボディ。
インテークはカーボンが溜まっていますし、ガスケットから混合気漏れがあったようです。
外した8連スロットル。その右にはプーリーがついているウォーターポンプが見えます。
カムカバーを開けたところ。ここまでしなくてもタイミングベルトを換えることはできるのですが、カムシャフトも見ておきたいし、ガスケットも交換したいので開けたそうです。
左バンクのカムシャフトのアップ。白いマークを合わせるのですが、シャフトの切り欠きとわずかにずれていました。
外したマフラー。
上の写真のアップです。左バンクのバルブタイミングがすこしずれていて、おそらくそのせいで左バンクのマフラーに異常な焼け方をしている部分(黄矢印)があります。エンジンが本来の力を発揮していないわけですから「すこし走らない」と感じたのはそのせいかもしれません。
翌朝、すでにエンジンが載っていました。夜、集中して作業すると手が早いもので、レポーターの予想以上に進んでいます。
塗装の剥がれていたカムカバーがきれいになっていました。
インテークの内側も清掃し、トランスミッションオイルヒーターのパイプからの水漏れも直しました。
クラッチカバーの右上の出っ張りがセルモーターです。右下にはフレームへの太いアース線が見えています。(Ferrariのロゴが赤くなってる)
エンジンの前側を下から見上げたところ。黄矢印の歯車のような部品はクランクシャフトに直結されていて、矢印よりすこし右奥にあるセンサーで回転数を読み取っています。
こちらの黄矢印は燃料レベルセンサーです。
マフラーに突き刺さっているセンサーは、太いほうがO2センサー、細いほうが排気温度センサーです。O2センサーは触媒の前方にもあります。
エンジンオイルのドレンボルトは2つ。左はオイルタンク、右がオイルパンです。
これまでに交換した古いパーツ。

タイミングベルトとテンショナー、オルタネータベルトとベアリング(異音が出ていた)、エアコンベルト、パワステベルト、バキュームホース(亀裂あり)、プラグ、プラグカバーガスケット、タペットカバーガスケット、カムシャフトカバーガスケット、カムシャフトOリング、インマニガスケット、エキマニガスケット、サーモスタット、アッパーホース、ロワホース。

サージタンクが片方付きました。
マフラーのテールを取り付けています。

その夜12時頃、自宅でガレージレポートの写真を整理していたらメカさんからメールで「F355のエンジンかかりました。調子いい!」。

翌朝、まだタイヤがついていなかったのですが、午後にはこのように復活して試運転に出るのを待っていました。
直線で前が空いたところ、2速でギュォォォォオオオオ〜ン。左右の風景がうしろに飛んでいきます。頭がうしろに取り残されないようにするのに苦労しました。フェラーリの全力疾走は迫力あります。

「いまのでどれくらい回したんですか?」「7千回転ですね」。ランチア・デルタのようなターボ車とちがって、一気に吹け上がります。

ガレージに戻って、アイドリングのまま、エンジンルームをチェックしています。
ライトの点いている355もかっこいい!

単にベルトを換えておしまいではなく、今回エンジンを下ろしたことで何箇所かトラブルが起きるまえに手を打つことができました。手間はかかりますが「下ろしてよかったですよ」とメカニック。これで自信をもって納車することができます。

今回、フェラーリだからここまでやったわけではなく、フィアット・プントだって同じです。クルマを値段で差別はしません。ただ、355をリセットするにはエンジンを下ろす必要があっただけです。一度ルッソでリセットさせていただけば、クルマのコンディションを把握できているため、その後のメンテナンスについてもコストを予測してお伝えすることができます。お客様にとっても「安心感」というオプションがつくわけです。

クレームのついた個所、壊れた部品を交換するだけで、他の部分はまったく見ないし、注意もしない。そんなメンテナンスを続けても、そのクルマは良い状態を維持することはできないと思います。消耗品の交換だけでなく、ホースのバンドがきちんと締まっているか、水漏れ、オイル漏れはないか、ブレーキパッドはあるか、クラッチの具合はどうか等々、お客様の乗り方を勘案してチェックします。また、安価な部品であれば(了解をいただいた上で)ついでに交換するなど「クルマを良くしていこう」という気持ちで取り組んでいます。

「お客様から、気持ちよく乗れるようになりましたとお電話をいただいたんですよ」と話すメカさんはいつもうれしそうです。お客様に喜んでいただけるのがルッソのスタッフの喜びです。

来週はランチア・テーマ8.32のエンジンを下ろす予定です。