BX REPORT No.1
今回は BX REPORT をお届けするに至った経緯と,わたしの第一印象についてお話しましょう.

■ 今度こそフランス車

なぜBXだったのか.Eワヤマさんいわく「色で決めたんです」.

正確なボディ色は何回聞いても忘れてしまうのですが淡いブルーで,たしかにきれいな色です.ほのぼのとした感じがBXに似合っています.

色が気に入ったという以外にもうひとつ理由があったとか.

そのBXを見つけたのは名古屋でもシロトエンについては老舗のディーラー.そこのメカニックさんが3台のBXから部品を集めて1台を作り上げたそうです.つまり専門のメカニックさんが思い入れをもって整備したシトロエンがどういうものかを見てみたかったそうです.

基本整備は済んでいますからルッソではなにも手を入れずにレポートしてみます.車両価格55万円,消費税と名義変更手数料あわせても60万円というのは前回のリトモよりも割安です.

当初3日くらいEワヤマさんが乗ってみたらしいのですが,それ以降はメカニックの長屋さんの通勤車になっているとか.長屋さんはルノー・ファンなのですが,そもそもフランス車がお好き.BXをまえにしてすごくうれしそうです.「これがMTだったらもう名変して自分のものにしてます(笑)」.

長屋さんいわく「調子はいいけどこれを代車にしたらガタガタになってしまう.わかった人が乗らないとね」「なにがわかっていないといけないんですか?」「慌てないこと」「え?」「だから急ブレーキを踏んだり,頭に急がつくことをしないことです」.

このBXは5ドアハッチバックだから実用的. 駆動形式はFF,エンジンは 1900cc 4気筒にウェーバーのシングルキャブ.もうキャブと聞いても驚きません.それよりもミッションがATなんです.

まだリトモ・レポートは完結していません.しかし「つぎはBX」と決まったからには試乗しておきたい.実際に乗ってみれば方向性が見えてきますし,BXに酔わないかどうか不安なのです.気分が悪くなるようではレポートを引き受けることができません.また次期レポート車によってリトモレポートの締めくくり方も変わってきます.

■ これは自動車じゃない

そこでBXを一泊二日で駆り出しました.

運転席でEワヤマさんから簡単にレクチャーを受けます.「キャブのATなのでコールドスタートがむずかしいですね.軽く右足で補ってやってください.あとはブレーキのタッチがまるでちがいます.一旦つよく踏んでから軽くポンピングするといいらしいですけどあまり神経質にならなくていいと思います」.クラクションはウィンカーレバーの頭を押します.

エンジンをかけると静かでスムーズ.わ,ボディが動いたぞ.自動的に車高を調整しているんですね.5ナンバー枠サイズのボディとしては室内もゆったりしています.窓がおおきく取ってあるせいか明るい.小物入れもあるし,トランクも使い勝手は良さそうだし,リアシートも3点式ベルトだし,カーステレオも装備しています.立派なものです.シフトレバーをAレンジに入れてサイドブレーキを外してスタートです.

リトモから乗り換えるとボディが大きく感じますがパワステだから切り返しもラク.路面からのショックが明らかに少ない.リトモとは雲泥の差.シートもふわっと柔らかく身体を包み込むようです.でも個人的にはこういうシートは苦手です.

翌日,用事を兼ねて名古屋の市街地を走らせてみました.

雨の中,1本ワイパーもちゃんと拭いてくれるし往復速度もリトモより速いからイライラしない.リトモはすごく遅いパワーウィンドウもストレスなく開閉できます.雨漏りするような気もしないし,1987年式としては程度も良く,念入りに整備されたクルマだという気がします.ただし細かい部分はわかりません.

BXの足回りは窒素ガスと鉱物性オイルを封入したスフィア(球体)をはじめとした「ハイドロ・ニューマチック・サスペンション」といって,車高を常に一定に保とうしますし,ブレーキもその仕組みを利用しています.説明書によるとブレーキの踏みしろは15mm.ブレーキフィールは固いゴムを踏んでいるような感じ.足を戻すときにプシュ,プシュと空気が抜ける音がします.ちょっと踏むとカクンと効くので妙な感じですがちゃんと効くから大丈夫.じきに慣れます.

リアまわりのロボットみたいなデザインは好きなのですが,フロントはのっぺりしていて押し出しが効きません.そこがいいのかなぁ? このBXは「キャブの調子がいまひとつ」らしいのですが,リトモよりも全体にカッチリした印象でとくに不安はありません.ひとつだけリアの足回り付近からコトコト音がします.あれはなんでしょう?

100km/h くらいまでの巡航は快適.退屈なATも坂道発進や渋滞では楽ちん.ふと気がつくとぼんやり運転しています.病み上がりや疲れているときはこういうクルマがいいですね.

ところがしばらく走り回ってルッソについたときには疲れ果てていました.

「あれは自動車じゃありません.船です」.

道路のうねりを乗り越えたときにボディが前後にふわっと揺れるんです.振動をすこしずつ吸収しようとするからいつまでも揺れている感じがする.これをみんな「乗り心地がいい」というようですが,あれは「気持ち悪い」です.

フランスの石畳を走るにはああいう足が必要なのでしょうがここは日本です.「ちょっとやりすぎじゃないの?」.

Eワヤマさんが心配して「途中でクルマを止めたんですか?」.いえ,クルマを止めるほどのことはないのです.クルマ酔いというのは気分的なものもあるからBXの乗り心地に「酔ってしまうかも」という思い込みがいけないのかもしれません.

BXは道路を蹴るのではなく,池のうえをミズスマシのようにスイスイと優雅に移動していく乗り物です.

Eワヤマさんがせっかく用意してくれたレポート車を前に「不戦敗」するのもシャクですし,シトロエンやBXにも興味があるのでレポートさせていただきます.ただしレポート期間は長くて1ヶ月だと思います.それ以上は自信がありません.(笑)