1993 MASERATI 222 SR (hisata)

金曜日,ALFA155TS で Lusso に立ち寄りました.みんなで夕食に出ようかというとき,《Eワヤマ》さんが「今日,222に乗って帰ります?」.

旨いパスタを出すイタリアン・レストランまで「まず,わたしが運転しましょう」.通り雨のせいで路面はウェット.「こういうときは踏むと危ないんですよ」.助手席に乗り込み,ふたりして「マセっていいですよねえ」.とくに夜がいい.男ふたりで乗るクルマじゃありませんが.(笑)

2台に分乗して出かけ,ピザ,パスタ,ラザニアをたいらげ,店を出ると夜風が冷たい.薄暗い駐車場に222がいます.いわゆる紺メタなので,暗いところでは黒く見えるんです.いかにもワルそうな感じ.となりの赤い ALFA75TS が可愛く見えます.

キーを受け取り,運転席へ.キュルキュルキュル,ブロロロロ〜ン.低い排気音と,サイドウィンドウを震わせる振動.左手でポジションランプを点灯すると,メーターパネルが青緑の照明に浮かび上がります.メーターは見えるけれど,パネル上端に並んでいるインジケータ類がステアリングに隠れてしまう.《Eワヤマ》さんが「夜はコレがお約束です」とセンターコンソール上のアナログ時計の照明スイッチを入れます.ストロークの短いサイドブレーキを外し,セレクトレバーをPからDに移すとコンっとお尻が下がります.フットブレーキを緩め,駐車場の出口に向けて,しずかにステアリングを切っていきます.

アイドリング状態ではグッグッグッとくすぶっていたエンジンが,流れにのるとやがてスムースに回りはじめます.ブーストをかけなくても市街地の巡航にはまったく問題なし.逆に,街中で踏むと怖い目に遭いそうだから,クルーズを愉しむことにしました.

シートの前後調整は手動なのですが,背もたれは電動.セレクトレバー脇にあるスイッチを手前側に押します.すると,フロントのアームレストがちょうどよい高さにあり,BMWのドライバーズスクールの教官が見たら絶句しそうな姿勢になるのです.電動バックミラーは両端がつり上がったデザインで,うしろの風景が菱形に切り取られます.ちなみに,可倒式ではありませんでした.

Lusso に戻って解散です.155TS は預かってもらい,そのままマセラティで「おやすみなさ〜い」.うれしくて思わずニヤついてしまいます.「2〜3日だけどよろしくなっ」.

室内の金時計では,もうすぐ午前0時.自宅に向かって走り出したのですが,途中で「このまま帰るのはもったいないな」とウィンカーを出して広小路通りを東へ.街を抜けてグリーンロードに入ると周囲は真っ暗闇.路肩に並ぶ反射板が右に左に曲がりくねります.60km/h ほどで流して,パーキングエリアで折り返しました.

前後とも 205/50 R16 という 222 4V と同サイズのホイールを履かせてあるため,ちょっとゴツゴツ感があるのと,路面の轍に流されやすい.直線ですこしスピードを出してみてわかったのですが,軽いアクセルが急に重くなるポイントがあるんです.「ここから先は覚悟して踏むんだぞ」と言わんばかり.今夜は遠慮しておきます.

ギブリほど暴力的ではありませんが,文字どおり,神の手がうしろから押してくれますから 222 SR も十分速いです.でも,この神様「それ行け〜!」と押してはくれますが,その後は守ってくれません.ALFA155TS のような軽快感はないものの,ドライブフィールは重厚で「筋肉質のクルマ」.やっぱりGTカーです.「アキレス腱に爆弾を抱えたスプリンター」といったところでしょうか.とかく悪い噂のつきまとうマセラティですが,こうして走らせてみると「お,ちゃんと走るじゃないか」.

街に戻り,通りを流していると,ときおり街灯が,本革に覆われたダッシュボードを照らします.と同時に,磨き上げられたウッドステアリングの頂点から,左右に光の滴が流れ落ちていきます.このステアリングは手が滑りそうで好きではなかったのですが,マセラティはこうじゃないといけません.手に冷や汗をかくようではドライバー失格ですね.

1時間ほどのドライブを終え,自宅の駐車場にクルマを納めました.

すると風景が一変しました.いつもはそこにシルバーのアルファがあるのに,なぜかワルそうなのがいるんです.

比較的コンパクトな2ドア・クーペ.真横から見ると,サイドウィンドウの高さがあまりなく車高が抑えられているのがわかります.ボディデザインに新鮮さはありませんが,力強いラインが好ましい.ダーク系のエクステリアに比べて,対照的に明るく華やかなインテリア.シートからルーフまですべて革張り.外からのぞき込むと,ふつうのクルマじゃないことに気づきます.

豪華な内装というと,メルセデスなどのドイツ系,ロールスやジャガーなどのイギリス系,そしてマセラティやランチアなどのイタリア系があるわけですが,それぞれ特徴があります.ドイツ系はクソ真面目さが目に付き,イギリス系は(好きだけど)いまのわたしの年齢ではどうもしっくりこない.その点,イタリア系はそれほど堅苦しくないから30歳代半ばでも絵になる.

マセラティというクルマは,自分のなかの「大人」に気づかせて,その「大人の部分を演出するための道具」なのです.このクルマは,自分に自信のある人間に乗ってほしい.自信が持てない人間の「道具」にはなりません.

そんなクルマを日常生活の足として使うとどうなるか.興味のあるところですね.

週末,家族といっしょに出かけます.

内装を汚さないように,息子たちに「靴を脱いで乗りなさい」.「これは借りているクルマだから汚してはいけない」「(部品が外れたりして)壊れるから,いたずらしてはいけない」ことを言い聞かせておきます.はじめは不安だったのですが,結果として,なんとかなりました.逆に,リアシートが狭いので,ちいさな子供じゃないとつらいんです.

チャイルドシートは載せなかったので,直接シートベルトをさせましたが,窓から外が見えないのと眠ってしまったときに無理な姿勢になるので,実際にこういうクルマを持つならチャイルドシートは必須です.クーペボディなのでトランクは広いとはいえませんが,家族の一泊旅行くらいOKでしょう.さすがにキャンプはつらいですね.

倒してあった運転席を戻して乗り込むとシートベルトの受け口が見当たりません.床から20センチくらい立ち上がっているので,シートを戻したときに後部座席側に曲ったまま.無理しないようにアームレストとの隙間を通すのに苦労しました.ドアは4枚あるに越したことはないようです.

朝いちばん,エンジンが冷えている状態では始動直後,アイドリングが高い状態が1分ほどつづき,じきに 1,000rpm に落ち着くのですが,水温計はすぐには動きません.3分ほどの暖機でスタートしたら,回転が不安定でぎくしゃくします.「失敗したな」と思ったのですが,負荷をかけないようにゆっくり流しながら暖めます.

オートエアコンで25度に設定しても温風が出るまでには10分以上かかります.しばらくすればヒーターもちゃんと効いて快適になりました.フロントのサイドウィンドウは電動,リアは後側がヒンジですこし開くようになっています.リアトレイにはシェードも格納されていますが,スモークフイルムが貼ってあるので不要でした.ついでにサイドウィンドウも前後ともスモークが張ってあるのは疑問.フロント側は貼るべきではありません.夜はドライバーの視界を妨げますし,ただでさえ不良っぽいクルマなんですから,それを強調してはいけません.ほんとうは外から内装が見えないのがさびしいんです.(笑)

ALFA155TS も乗り心地は固めなのですが,222 SR はそれ以上です.かろうじて家族からブーイングも出ることなく,愛知青少年公園に到着.広い駐車場の端っこに停めます.ぶつけられたらイヤですからね.222 SR はRVほどでかいわけではないので,駐車場の枠線内に納まります.

ブルーセラという塗色は,夜は黒っぽく,昼は日光が当たるとグリーンがかって見えるメタリック色です.そういえば,メーターパネルの照明もブルーグリーンでしたっけ.なにか関係があるのでしょうか? わたしはどちらかというと,このままマセラティと走りに行きたいのですが,週末は家族サービスなのでした.

公園のゴーカートもいいけど「ほんとのカートに乗ろうぜ.息子よ」と無言で呟きつつ,クルマに戻ってきました.帰路は週末恒例の渋滞です.妻が横から「オートマチックでよかったわね」.まあ,たしかに楽ちんではありますな.222 SR はこれでいいんだけど,わたしはまだトルコンには馴染めません.Dレンジのままブレーキを踏んでいるのがイヤなんです.趣味で乗るならシフトも機械任せではなく「自分で操作したい」.まだ若いのかもしれません.

それでもマセラティはキライじゃありません.わたしの心中を察したのか,妻が「いまごろ155は,このまま手放されるんじゃないかって心配してるわよ」.おいおい,それじゃディズニーの『トイ・ストーリー』じゃないか.

「心配しなくても日曜の晩には迎えに行くよ」.

さて,日曜日の夜です.

週末,100kmほど付き合ってもらった 222 SR を返しに行きます.燃費は 5km/l くらいでしょうか.ガソリンの減り方が ALFA155TS より早い.

約束の時間よりすこし早く出て,遠回りしていきます.広い直線道路で右足に力を入れてみると,シュワワワワ〜っと加速していきます.海面を風が吹き抜けていくような音です.ドライ路面で,じわっと踏むならタイヤが滑ることはないでしょう.まだ上があるのかと思ったのですが,あとで《Eワヤマ》さんに運転してもらったら「こんなもんです」.ふ〜ん,そうだったのね.でも,流れをリードするのはたやすいことです.

アクセルを戻したときにデフとの接続部分がコンっと鳴ります.ラフなアクセルワークは控えたいですね.ただ,エンジンを回さずに乗っているとクルマもストレスが溜まるのかぐずることがあります.時と場所を選んで,ちゃんと回してやることも必要でしょう.

222 SR を返し,155TS に乗り換えます.《Eワヤマ》さんいわく「hisata さんの 155 はよく走りますね.ROM 交換のせいか,2,800rpm あたりからアクセルについてきますよ」.慣れているから 155TS のほうがしっくり来ますが,乗り換えても違和感はありませんでした.「お,アルファだ」と気づかせてくれたのがエンジン音です.222 SR のそれは良くも悪くもターボの音.NAの盛り上がり感にはかないません.

ディーラーでちょい乗り試乗したところで,わかることには限界があって,最近そういう試乗記を書く気が失せていたのですが,今回,WEEKEND 試乗の機会を得て,いろいろ発見がありました.やっぱり自分の家に連れて帰らないといけません.たとえ数日間でもいっしょに暮らしてみれば,そのクルマとの生活をシミュレートできます.その第一弾が今回のレビューだったわけですが,いかがでしたでしょうか?

Lusso には ALFA155 に乗っているお客さんが多く,イタ車の乗り方がある程度わかった人がつぎに面白そうなクルマを探すときにマセラティが候補に上がることでしょう.どんどん近代化していくアルファロメオに物足りなさを感じているなら,まだアクの強さを残しているマセラティは格好の趣味の対象かもしれません.ただし,お約束を守れない人にはしっぺ返しが来るでしょうから,ご用心ください.