hisata が December 1996 に試乗した 75TS は,じつはスタッフの横山《たっくん》所有車だったのです.ここでは,そのオーナー自ら紹介します.
■ 75との出会い
僕が初めてアルファロメオ75という車の存在を知ったのは、まだ外車など選択肢に入らない学生の頃でした。その頃、自分は古いFRのいすゞジェミニ(84年式)をエンジンチューン(1.8Lを2.1Lボアアップ)したり、サスチューン(ロールをしなくて車高が低ければ偉いと思っていた)して乗っていた頃でした。そんな頃、知り合いが新車で75を購入したのでした。
その当時の感想は次の通り。
簡単に言ってしまえば、峠小僧の僕にはアルファロメオ75という車は自分の常識や判断基準から完全に外れた車でした。しかし、時が経つにつれ、欲しくて仕方がない車になっていったのでした。
- 1.なんて不格好なんだろう
- 当時(91年頃)リアハイデッキスタイルの車なんて少なくとも自分のまわりには存在しなかった。
- 2.使い勝手よりもデザインを優先したインテリア
- ひねくれているとしか思えなかった各部パーツ類(パワーウィンドウ・スイッチが天井についている、パーキングブレーキの形状がコの字、車から降りるときに探してしまうドアオープナー等々)
- 3.カタログスペックよりも速く感じるエンジンフィール
- 低速トルクが細過ぎただけかも知れない。
- 4.心地よい排気、吸気音
- 当時、ノーマルマフラーというのは換えるのが常識だと思っていた。
■ 75までに乗ったクルマ達
初めて75に出会ってから3年後、6年間付き合ったジェミニと訣別することにしました。その際75を次期戦闘機候補の一つに挙げました。しかしアルファロメオ販売代理店に勤めていた先輩(Eワヤマ)に次の理由で断られました。
「いい車を探すことが難しい。くたくたの75ならたくさんあるが、自信をもって薦められる75を探すのは非常に難しい」
代替案として155TS 8Vの新車を薦められました。FFという点が気になったのですが、試乗させてもらったところ、FRのジェミニよりもナチュラルなハンドリング、75にも劣らない排気音が素晴らしく、すぐ購入を決めました。その後、1年半ほど乗りましたが、ノーマルでも楽しい(ノーマルが楽しいと言った方がいいかも知れない。16インチの大径ホイルを履いたり、サスチューンをしたりしたが、車が完全に負けてバランスが崩れておもしろく無くなってしまった。)、かつ壊れないいい車でした。
ただし75に乗った時に感じた<ガラス製品のような危うさ>がなく、まるでドイツ車に乗っているような安心感=機械的な無機質さを感じ、物足りなかったのも事実でした。
155の次に購入したのが88年式ルノー5GTSでした。わずか1.4L OHV、5速マニュアルの、素晴らしくベーシックなグレードの車でしたが非常にニュートラルで楽しい足廻りを持った車でした。フランス車でよく言う<ネコ足>で、かつシートも良く、それでいて山道を限界領域で走っても楽しいのです。国産同クラスのベーシックカーにはない楽しさがありました。
■ 念願の75購入
とうとう75を手に入れるチャンスがやってきました。お店に下取り車として75が入って来たのです。91年式、ロッソアルファ、サンルーフ付き、そして走行距離がなんと29.000kmの極上車でした。
念願の車でしたが、新車状態の75と比較して(1)シンクロがいかれたように高回転時にシフト操作を拒絶する渋いミッション(トランスアクスルという構造的な問題もある)(2)タペットノイズが気になるがさつなエンジンフィール(距離的にも乗っていないからだろうか?)(3)室内が汚い(前オーナーは愛犬家)など気になる部分がありました。しかし(2)は毎日乗って躾なおしていくうちに、(3)は大掃除で解決し、(1)は後述するドデオン及びミッションマウントの修理の際、ギアオイルを交換し、またシフト操作のコツをつかみ、不満は解消しました。
■ 避けて通れない道
75購入後、75オーナーは4万km乗ったら必ず経験するトラブルが予想よりも早くやってきました。それはブッシュの劣化です。イタリア車の苦手科目であるゴム製品であの乗り味を出している75では避けて通れないドデオンマウントからの異音が発生したのです。
これは有名な話ですが、75のリアアクスルは簡単に言ってしまえばリジットアクスルの発展型といえるサスペンション形式を採用しています。その構造はドデオントライアングルと呼ばれる文字どおり三角形のリアアクスルを三角形の頂点にドデオンブッシュと言うブッシュでリアのサブフレームに吊り下げています。当然ブッシュが劣化すればそこから<ゴトゴト>と音が発生します。・・・・気を取り直し車体の点検を行います。
その際にプロペラシャフトの接合部=カップリング=ゴム製品にも劣化による亀裂を発見しました。カップリングはエンジンからリアアクスルにデフと一体になっているミッションの部分まで合計3カ所あり、通常駆動ロスの少ないエンジン側から後ろに向けて悪くなります。これも一緒に交換が必要です。工賃部品含め約13〜14万円の費用がかかります。
75という車にはお金がかかるのです。しかしレーシングカー顔負けの凝った構造を採用し、他メーカーが優先する実用性や耐久性などより、車を操る楽しさを優先するアルファロメオというメーカーの信条をはじめて思い知らされた気がしました。
オーバーホールを終えて再び乗り出した時「これだけ費用対効果が体感できる作業があるのか!」と驚くほど気持ちよく直っていました。車の挙動や音が自然に自分へ入力されてくるのです。
75という車はベストコンディションを維持するのは大変です。また維持出来ている車が少ないのも事実ではないのでしょうか。僕は仕事柄、他のお客様の75を何台か見たり乗ったりしているから知っていただけで、気づかずに乗っている方もいるはずです。
また、今回作業の目安として約4万kmの走行距離を目安にしていますが。それもまた一概には言えないようです。僕の車はたった3万km弱で作業が必要になったのです。他車にも言えることですが車両の使用状況によって異なるのです。すべての人がはまりやすい<罠>なのでしょう。