2002 RENAULT CLIO SPORT 2.0 RS

はじめてクリオRSのフェイズ2を見たとき,かっこいいとは思えませんでした.

これならマイナーチェンジ前のひょうきん顔のほうが愛嬌があってよかった.うしろから見たら日産マーチだし,国産のコンパクトカーにしか見えません.それにしても,この顔は何かに似てるんだけど何だろう? カバじゃないし,リスでもないし.

以前,展示車を見せてもらったことがあります.「家族を乗せるファミリーカーとして使えるかな?」と後部座席に乗り込んでみて「せ,狭い」. 天井が低いので大人は無理です.少なくとも,わたしは断ります.小学生までならいいかもしれないけれど,窓が開かないし,ドアはないし,ファミリーカーとしてはアルファ147のほうが絶対にいい.

とにかく乗ってみましょう.キーレスエントリーなので,キーホルダーのボタンを押すとハザードが1回点滅すると同時に,カシャンとドアロックが開きます.あ,ペダルがアルミですね.

運転席から見える景色はすっきりまとめてあります.革巻ステアリングは親指が当たる部分は樹脂なのでスベスベ.本革とアルカンタラのコンビネーションシートは固すぎず,柔らかすぎず.ドアの内張りにもアルカンタラが使われていて,腕に触れると暖かいです.冬はいいけど夏はちょっとね.

いまのクリオRSはオートエアコン付き.1枚がけCDデッキに,CDチェンジャーが運転席の下に置いてあります.最近はこれくらい常識なのでしょうか?

  1. フロントフォグランプ
  2. リヤフォグランプ
  3. キセノンヘッドランプ
  4. リアワイパー
  5. 集中ドアロック
  6. パワーウィンドウ
  7. ステアリングホイールチルト
  8. 本革巻きステアリングホイール
  9. 後席ELR3点シートベルト
  10. 前席プリテンショナーつきシートベルト
  11. 前席フォースリミッターつきシートベルト
  12. フロントスポイラー
  13. リアスポイラー
  14. アルミホイール(16インチ)
  15. ABS(アンチロックブレーキ)
  16. サイドインパクトバー
  17. 運転席SRSエアバック
  18. 助手席SRSエアバック
  19. サイドエアバック
  20. オーディオデッキ
  21. CDプレイヤー

レインセンサーまで付いているそうです.登録に出かけたときに夕立に降られて,ワイパーが急にフル稼働をはじめたので壊れたかと思ったそうです.(笑)

それにサンシェードの裏にバニティミラーがついていて,開くと照明が点灯します.ふつう,こういう装備は助手席だけなのですが,運転席にも付いていました.女性が運転しても似合うクルマということなのでしょう.

装備は豪華ですが,表面的な豪華さはありません.非常にあっさりした現代のクルマという印象で,とくにフランス車を感じさせるものもありません.

ついでに,スペックです.

全長 x 全幅 x 全高3810 x 1670 x 1410 mm
車両重量1100 kg
駆動方式FF
トランスミッション5速MT
エンジン直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量1998 cc
最高出力169 ps (124.30 kw) / 6250 rpm
最大トルク20.4 kg・m (200.06 N・m) / 5400 rpm
パワーウェイトレシオ6.51 kg/ps
タイヤ(前)195/45R16
タイヤ(後)195/45R16
サスペンション(前)マクファーソンストラット
サスペンション(後)トレーリングアーム

これでお値段が248万円というのはお買い得かも.

じつはこのクルマは下ろしたての新車なのです.オドメーターは130km.

その夜,Eワヤマさんと同乗して足助(あすけ)へ向かいました.

最初はEワヤマさんの運転です.彼は別のクリオRSに乗っているので先刻ご承知.いわく「これはアルファ155の8バルブの正常進化型なんです」.

猿投グリーンロードを抜け,国道153号線を北上します.助手席のシートはなかなか座りごこちがいいです.助手席の感想はそれだけ.隣に乗っていて楽しいクルマではないということです.

県道に左折するところで運転を交代しました.あたりはほとんど真っ暗ですが,キセノンの青白い光が明るくて頼もしい.

その先は下りのワインディングが続きます.いつもの道ですが,怖いのであまりスピードは出しません.当然ながらクリオはまったく危なげなくコーナーをクリアしていきます.この程度の速度では余裕なんですね.

45扁平タイヤですが,思ったより突き上げは少ないです.足回りは適度に締めてあって,いい感じ.ステアリングの重さも適当で,コーナーリングもニュートラルというのでしょうか,勝手に曲がっていってくれます.(笑)

新車なので4,000rpmまでを目安に走ります.でも,そこまで回せば十分走れます.2,000rpm以下でも粘るくらい低速トルクがあるので待ち乗りもラクチン.3速だけで走れたりします.

コンパクトで取りまわしも楽で,踏めばそこそこ速い.マニュアルシフトだといっても操作も軽く,気難しさは皆無.一時停止寸前に1速に入れることもできます.

アルファ164に換えて,翌日から1週間,生活の足として使ってみました.

マンションの1階部分の駐車場から出すにはすこし上り坂になっています.164はいつもそこをヨイトコショと上っていくのですが,クリオは身軽です.「あれ?」と思う間もなく,駐車場の出口に着いてしまいました.「そうか,おまえは軽いんだな」と実感した瞬間です.

カッシャン,カッシャンというウィンカーの点滅音を聞きながら左折していきます.名古屋市内のオフィスまで約10分.表通りは混むので裏道を抜けていきますが,STOP & GO の繰り返しも苦になりません.逆にいうと街中を走っていてもドラマはありません.ごく平凡なクルマです.

低速トルクがあって扱いやすいし,ハンドリングは素直だし,ブレーキもよく効くし,踏めばいい音がするけど,ちょっと音が小さいのがさびしい.マフラーを換えて,踏んだときの音が変われば面白いかもしれないな.そういえば,マフラーはバンパーに隠れて見えません.

高速道路も走ってみようと,東名阪自動車道の勝川ICから名古屋IC方面へ向かいます.4,000rpmまで引っ張りながら加速すれば高速の合流も楽です.速すぎて前車との車間が詰まってしまうくらいです.しばらく左車線を流してから,3速から踏んで右車線に出ました.それが,

むちゃくちゃ気持ちいい~!

と,わたしのレポートとしては異例の「拡大文字」になりました.

この気持ちよさは一体なんなのでしょう? 速度を上げてもピタっと安定していて,アクセルを踏めばぐっと加速してエンジン音が盛り上がっていき,緩めるとエンジン音がブゥ~ンと下がっていく.多少ラフな操作も受け入れてくれて,しかも最初から最後までウルトラスムーズ.そう,アルカンタラの触感に似ているのかもしれません.

このエンジンフィールが155の8バルブに似ているのです.ただし,8バルブはエンジンを回す(回転を上げる)のが楽しいのに対して,クリオRSは飛ばすのが楽しい.8バルブは高速域では浮き足立ってきて怖いのですが,クリオは安心感があって「スピードを楽しむ」ことができます.

免許がなくならないように注意しなければなりません.(苦笑)

本郷(名古屋)で下りて,そのまま足助に向かいます.今度はひとりです.

グリーンロードを抜けて国道に出ると両側の窓を開け放しました.梅雨の合間の湿気が身体にまとわりついてきて,妙に肌寒いのですがそのまま走りました.

やはり直線よりもカーブのほうが楽しい.3速でアクセルを踏んだり,離したり,エンジンとのおしゃべりを楽しみながら走らせます.わたしの印象では,イタリア車は勢いばかりで足回りが着いてこないから飛ばすと怖いし,ドイツ車は「高性能」なのだろうけど,飛ばしても感動はありません.それに対して,このフランス車は高速も快適に移動できる足回りに,気持ちよく吹ける4気筒エンジンを積んでいます.爆発的なパンチはないものの,上手にパワーバンドを維持してやれば,思いのほか活発に走ります.

ルノーに乗るのは初めてだと思っていましたが,メガーヌ・クーペに乗ったことがありました.おなじ5MTの3ドアハッチバックなのですが,印象は希薄でなにも覚えていません.街乗りしかしなかったのもいけないのでしょう.ただ,あのメガーヌについていたマフラーが欲しいと思うだけです.(失礼)

足助試乗からの帰路,誘惑に勝てず,3速で4,000rpmから踏んでみました.

むちゃくちゃ気持ちええ~!

ワンパターンでごめんなさい.

このクルマは4.000rpmから上が気持ちいいです.いい音がします.最高です.

週末,家族を乗せて出かけました.いつも使っているチャイルドシートはなしで,子供たちは直接シートベルトを締めました.164より狭いし,窓も開かないけれど,とくにクレームは出ませんでした.

ファミリーカーとしてはトランクが狭いし,子供たちが乗り降りするときに,まず自分が降りないといけないし,リアの窓は開かないし,MTだし,不利な点も多々ありますが「いいなぁ,コレ」. パッと見たところ,ありがちな国産車なのですが,左ハンドルのMTというところがいい.わかる人にはわかります.

思わず欲しくなっちゃいました.

都内に住んでいるときはMTは苦痛だったけれど,また名古屋に戻ってきてMTが苦にならないことがわかりました.クルマを楽しむなら東京より名古屋がいいです.

アルファロメオは155から164と乗り継いできているので大好きなのですが,最近のアルファは「ちょっとお洒落」というイメージがもてはやされいるようで馴染めません.そういう意味で「外す」にはちょうどいいクルマです.

Eワヤマさんが,このクリオRSを「アルファ155の8バルブの正常進化型」といったのは「メーカーも形もちがうけれど,155の8バルブのエンジンフィールを現代風に煮詰めて,シャーシや足回りを進化させればこうなった」という意味だそうです.たしかに,155TSの16Vは156TSが引き継ぎましたが,8Vのほうは156ではなくクリオが引き継いだのですね.

今回のレポートで300km走りました.しばらく付き合っていると,この顔も見慣れてきて「個性的でいいかも」と思えるようになってきました.あたり障りのないこぎれいな顔よりも味があっていい.

自分がオーナーだとしたら,ちょっと車高を下げて,マフラーを換えれば完璧.あとは余裕があれば,オーディオの音質改善をしたいところですね.

運転が楽しめるコンパクトカーをお探しならば,クリオRSはお薦めです.装備に関して哀しい思いをすることはないでしょう.装備のわりに価格が低く抑えてある点をEワヤマさんも評価しているようです.なぜかフランス車に縁が薄いEワヤマさんも「クリオRSなら乗ってもいい」と思えるとか.

そうそう,クリオが何に似ているのかわかりました.カナブンです.(笑)

そういえばルノーは昆虫系でしたね.これはEワヤマさんの指摘です.クリオRSが人気がないのは「カブト虫のメスが人気がないのとおなじ」だそうです.

果たして,このクルマはカナブンなのか,カブトなのか.その答えはアナタ自身で見つけてください.