LOTUS Elise (hisata)

LOTUS Elise


Lusso で赤い Elise を購入したMさんが「hisata さん,一度わたしの Elise に乗ってレポートを書いてくださいよ」.それを聞いていたEワヤマさんが「それならわたしの Elise を出しますから,ふたりで峠でも走ってきてはどうですか?」.

ということで早朝から茶臼山方面へ走りに行ってきました.

まだ運転技術も未熟で,くわしい理屈もわかりませんから,わたしが感じたことをそのままレポートします.独断と偏見の長文レポートになりますが,そもそもクルマを「評価」するつもりなどありません.「こんなふうに楽しかった」という様子をお伝えできれば幸いです.

エリーゼがやってきた

ツーリング前夜にEワヤマさんの白い Elise を自宅で借り受けました.いつもは155があるところに真っ白なスポーツカーがあります.ペタンと低くてコンパクト.車幅がひろいように見えるけれど155と大差ない.たとえばフェラーリをガレージにしまっておくのも憧れますが,車両価格,ボディサイズ,維持の手間などを考えると Elise は手頃かもしれません.

翌朝5時起床.待ち合わせ場所に向かいます.

キーを差して90度回すとドアロックが解除されます.太いサイドシルをよいとこしょっと乗り越えてシートに収まり,イグニッションを回すまえに付属のリモコンでセキュリティを解除します.解除ボタンとセットボタンが付いていて,クルマから5〜6m離れても反応します.これでセットするとドアを開けただけでアラーム(クラクション)が鳴ります.

イグニッションを2段ひねるとメーターパネルに灯がともります.ジー,カチカチとメカニカルな雰囲気.もう1段ひねれば簡単にエンジンがかかりました.背中からエンジン音が響いてきますが,ミッドシップとしては静かなほうではないでしょうか.もちろん排気音も静かですから早朝の住宅街でも安心.

デジタル表示の走行距離は約 1,000km,ガソリン残量は 24L.念のためにスタンドに寄って「ハイオク満タンね.でも目一杯入れないように」.大丈夫だとは思うのですが,ギリギリまで入れてガソリンが溢れたりしないようにという配慮です.ガソリンキャップ専用のキーを差して右に90度回すとロックが外れ,閉めるときははキャップを右にカチカチと空回りさせればOKです.デジタル表示が Full になりました.

さ,オープンしましょ

上天気なので待ち合わせ場所につくと,早速幌を外しにかかります.ゆうべEワヤマさんに教えてもらったように,助手席側のシートのうしろに差してある六角レンチを取り,リア両脇の固定ボルトを緩めるとフックが外れます.つぎに両脇に巻き込んである幌のスナップを片側3カ所ずつ外したところ,左右に渡してある棒が2本落ちてきました.前端はフロントグラス上部に差し込んであるので抜けば幌は外れます.そして,サイドグラス上部の太い支柱を抜けばおしまい.結果,布が1枚と棒が4本になります.テントを張るようなものですね.

Eワヤマさんに言われたとおり,幌一式は畳んで助手席に置きましたが,Mさんは市販のカバー(袋)に入れて,シートのうしろに置いてました.乗り降りする際にシートをうしろまで下げたりしないのであれば,それもいいでしょう.Mさんに地図のコピーを渡して「それじゃ行きますか」.

紅白コンビ,東へ

名古屋ICを通り過ぎて東へ向かうと猿投(さなげ)グリーンロードへ入ります.料金所では幌を開けていても手が届かず,係員さんに出てきてもらいました.幌を締めていたらハンドルを回して助手席側の窓を開けないといけないんですね.ちょっとつらいかも.

きれいな路面の緩やかなワインディングを抜けていくのは気持ちいい.道が曲がっているだけでワクワクします.頭上を舞う鳥のさえずりが聞こえてきて「ああ,オープンなんだ」.ルームミラーに映る赤い Elise をみて「紅白コンビだな」.雑誌の取材のような贅沢な組み合わせです.

帽子とサングラスは必携でしょうが,サイドウィンドウを上げているので 100km/h くらいまでは風が頭を軽く叩くくらいで巻き込みはほとんどありません.リアにもガラスがはまっているので前後左右をガラスに囲まれているわけで,オープンとはいえ,四角い金魚鉢に入っているような気分です.(ブクブク...)

以前に別の Elise を街中でちらっと運転させてもらったのですが,そのときほどメカニカルノイズは気になりません.オープンで走っていると風切り音にかき消されるのでしょう.基本的には ROVER の MGF とおなじ 1,800cc DOHC 4気筒エンジンですから官能的とは言い難いのですが,ボディが軽いせいかアクセルのツキもよく,3,000rpm も回していれば右足次第でぐっと加速してくれます.

国道153号線に入り,足助(あすけ)を抜け,飯田にむかって走ります.途中,オートバイの集団が対向車線を追い越していきます.「危ないなあ」と思っていたら,なんとレクサスが1台,うしろから来ます.前から対向車が来ているのにどうするつもりかと思ったら,わたしのすぐ右まで出てくるではありませんか.とっさに左の路側帯に逃げましたが肝を冷やしました.Elise が壊れたらボディパーツが手にはいるかどうかわかりません.ましてや,借り物のクルマなんですから傷つけるわけにいきません.

それにしてもステアリングが細かく取られます.轍などで路面が荒れていると直進させるためにステアリングの修正が忙しい.まるで「オレは右か左に曲がりたいんだ」と言っているようです.「もうすぐ曲がらせてやるからちょっと待ってろよ」.

稲武(いなぶ)で右折し,茶臼山高原道路という案内板で左折します.国道は他車がいるので流れに乗って走るだけでしたが,ここから先は峠の裏道です.ふとみると右のバックミラーが地面を映していたので,すぐ先の休憩所に入って止まりました.「バックミラーを直します」というと,Mさんも「おなじことを考えていたんですね」.2台とも右のミラーが自然に下がるようです.どうして左じゃなくて右なの?

タイトコーナーの連続

「この先はカーブがきついのと道幅が狭いので対向車に気をつけてくださいね」と注意して出発です.道幅が4m前後の峠道をどんどん登っていきます.2つ3つコーナーを抜けると「なんだ,これ!?」.じつによく曲がります.以前,AE86 でサーキットを走ったときのアンダーステアのような状態は出ずに,想像以上のスピードで安定して曲がっていくんです.こういうのをニュートラルな感じというのでしょうか.ミッドシップだからか,軽いからか,タイヤ (P zero) の性能なのか,わたしにはわかりませんが,右に左につづら折りの峠を抜けていくと,横Gのせいで気分が悪くなってしまいます.

以前 ALFA155TS でここを走ったことがあるのですが,Elise のほうがはるかに速いです.アルファのように大きなロールはないし,軽いせいでコーナーからの立ち上がりもいい.2速と3速を駆使して面ノ木を抜けると今度は下りです.狭いヘアピンもいくつかありますが,手前できちんと減速して一定のアクセル開度で回り,出口に向いたらアクセルを開けていくという繰り返し.ただ,右コーナーではルームミラーが邪魔になって出口が見づらいことがありました.

何台か対向車にも合いましたが「対向車が来る」と思って運転していれば慌てることはありません.うしろから突っ込まれないかと思いましたがフルブレーキングでもしない限りは大丈夫でしょう.

どこまで続くのか思うワインディングを抜けると民家のあるあたりに出ました.ホッとする瞬間です.折元峠方面に左折すると今度はちゃんとセンターラインのある道路です.上りのコーナーが連続する道なのですが,ちょっと路面が荒れています.気のせいかもしれませんが,コーナーリング中にふっとフロントの加重が抜けて,ステアリングがインに切れ込もうとすることが何度かありました.なぜ?

コーナーリング・マシン

サーキットではまだアウト・イン・アウトのライン取りも不完全なわたしですが,Elise の場合,操舵に神経をつかわなくていい分,ラインに気をつけることができました.ある意味で,こういう素直なクルマで練習するといいのかもしれません.

Elise はステアリングもブレーキもアシストがありません.でも,クラッチも含めて操作系は全体に軽い.シフトストロークは若干大きめですが,グリっゴリっと「シフトした」という実感があります.小径のステアリングと小さめのシフトノブもいい感じ.左側の太いサイドシルは(流すときには)ちょうどよい腕置きになります.ただ,シートがいけません.鉄板に布を巻いたような感じで,100km も走ると腰とお尻が痛くなります.シート脇のゴムボールを握って空気を入れるとランバーサポートが膨らむものの気休めです.

乗り心地については突き上げ感はあるものの,そもそも走ることしか考えられていないスポーツカーだと思えばわたしは気になりませんでした.数十キロの距離を乗るだけなら問題のないレベルです.

Elise は曲がるのが楽しいコーナーリング・マシンです.

それは前述のとおりなのですが,もうひとつブレーキもよかった.サーボアシストのないのが自然で,踏んだだけ効きます.P zero がどこまでグリップするのかと強めに踏んだら,軽くスキールしましたがロックしたわけでなく姿勢も乱れませんでした.ヒール&トウがやりにくいので往路であれこれ試してみたらできないわけじゃない.思い切って右足を捻り,踵をぐっと踏み込めばいい.シフトダウン時にはプシュっと吸気音がして回転を合わせるのも楽でした.Eワヤマさんには「まだ慣らし中なので 4,500rpm まで.たまに 5,000rpm までにしてください」と言われたのですが,しっかり 5,000rpm まで回しちゃいました.ごめんなさい.

折元峠を抜けると左手に「つぐ高原グリーンパーク」という「道の駅」があります.その駐車場へ入れて休憩です.

紅白2台の Elise を眺めながら,Mさんとふたりで「いいですねえ」.

Mさんいわく「峠を走ってみてわかったんですけど,ROVER のエンジンもフィールは悪くないですね.すくなくとも Elise の性格には合ってますよ」.同感です.また「LOTUS Elan SE に乗っていたときはセンタートンネルの幅があったのが Elise は狭いですよね.だから左ハンドルでも左端に座っている感じがなくて真ん中に近いですね」.言われてみればたしかにそうかもしれません.

折元峠,ふたたび

そこまでずっと前を走ってきたので「もう一度折元峠を往復してみませんか.Elise の後ろ姿を見てみたいので一度前を走ってください」.

平べったいスポーツカーが右に左にひらひらと曲がっていく様子はいいですね.結局そこを3往復したんですが,上りでツーリング中のバイクのうしろについたとき「コーナーリング速度ではバイクといい勝負かも」.そんなふうに思ったクルマははじめてです.

じつは助手席に置いた幌一式が左右にゴトゴトしてたのですが,それどころじゃありません.小物はレーシングシューズのケースに全部突っ込んでおいたのでよかったのですが,Mさんはタバコが(転がって)消えたといって探してました.シートの下などに入るとやっかいですね.リアのエンジン後部にトランクスペースもあるのですが,あまり大きなものは入りません.ふたりでツーリングに行こうとすると荷物は最低限にしなければならないでしょう.

白い Elise はメーカーオプションのカーステが付いていたのでラジオとカセットを聴くことができます.でも,オープンで走っているときはよく聞こえないし不要です.そもそもラグジュアリーという言葉とは無縁なクルマです.エアコンがないから夏の日中は乗れないし,シートのせいで長距離はつらい.ウィンドウ・レギュレータも渋くて,無理して回すと壊れそう.Eワヤマさんは「雨の日でも乗ります」と言うけれど,雨漏りは皆無じゃないはず.しかし,実用性を求めなければ,かっこいいし,FUNなクルマだと思います.

おなじオープンカーでも日本やドイツ車とくらべると(機械的に)劣る部分はあるかもしれません.でも,ROVER のエンジンは壊れる不安がありませんから安心して踏むことができます.半日乗り回した感じでは「走る」「曲がる」「止まる」という機能については不安は感じませんでした.思い切って踏むことのできる LOTUS としても意味があるのではないでしょうか.

折元峠でMさんは「クルマのポテンシャルはおなじなのについていけませんでした」と言いますが,シートがちがったんです.Mさんの Elise は赤革シートなのに対して,Eワヤマさんのはファブリック(布)です.3点式ベルトで峠を走るにはファブリック地のほうが滑りにくいので有利.Mさんは身体が左右に振られて苦労したはずです.本革シートのほうが見栄えはいいですがコーナーを攻めるには不利です.Mさんは「サーキットを走りたくて Elise を買った」とのこと.幸い Elise はロールゲージが付いていますから,他に4点式ベルト,ヘルメット,グローブがあればOKです.

エリーゼという乗り物

Elise に何を求めて,どのように付き合うかはオーナー次第でしょう.「楽しく走れればそれでいい」つまり「それ以上は求めない」というのが理想だと思いますが,Elise には持つ喜びもあります.今回のツーリングでも注目度は高かった.でも,どういうわけか2台並んでいるとみんな赤いほうを見るんです.スポーツカーって赤いほうが目立つのでしょうか.帰路の153号線でNSXの紅白コンビとすれ違いました.お互いに「オレたちのほうがかっこいいぞ」と思っていたでしょうね.他にもビートやカプチーノといったオープンカーを多く見ました.オープンに乗っているときは他のオープンカーに目が行きますね.

単独で走っているときは意識しないのですが,信号待ちしていると(前車とくらべて)車高が低いことを思い出します.周囲の視線を感じたからというわけではないのですが,先頭で止まったときに1速,2速,3速と軽く引っ張ってみたところ,あっという間に3桁のスピード.腕に覚えのある人にはパワー不足でしょうが,趣味で乗るクルマとしては十分速いです.

結果としてサーキット走行に適したクルマを手に入れると,自然とそういう世界が身近になりますし「速く走りたい」という欲が出てきます.素直なクルマで練習して挙動を覚えれば,ふだんの安全運転にも生かせるはず.ただしレースではありませんから「楽しく走る」のが鉄則.そのためにはクルマを壊してはいけません.腕よりも理性.無理をしないことです.

昼頃には Lusso に戻り,Eワヤマさんが「どうでした?」「最高でした!」.

Elise は街中でちょっと試乗したくらいではわかりません.ワインディングに持ち込んだときに本領を発揮するクルマです.また,オープンのほうが似合います.幌は「開閉」というより「取り付け・取り外し」というべき手間がかかるし,必要上やむなく付いている感じがします.

実用性ゼロみたいに書いていますが,左右のサイドシルの前部には小物(小銭)入れがありますし,ダッシュボード上部は窪んでいるのでサングラスやグローブを置いておくことができます.ちいさなバッグであればシートのうしろ,もうすこし嵩張るものはトランクスペースがあります.ただ,今回の帰路は暑くてまいりました.クーラーがありませんから,夏の日中は乗らないほうが身体のためでしょう.

いつものことながら hisata の試乗記にはサイズとかパワーといったカタログスペックが抜けています.試乗というレベルでは,数字を知らなくてもクルマは楽しめるはずだし,そもそも興味もありません.試乗を終えて ALFA155 に乗り換えたとき,Elise の軽さを痛感しました.わたしはその感覚のほうを大切にします.

とはいえ,せめて燃費だけでも...今回 190km 走ったわけですが,燃料タンク容量がわかりません.残量計が 24L の状態で 20L 入ったのですが,あえて 44L で満タンだとすれば,最終的に残量が 29L だったので燃費は 12.6km/L.真偽のほどは不明ですが,もしも峠を走ってこれなら燃費は抜群です.

走行距離 1,200km になってオイル交換するとのことですが,ボディ下部はアルミ板で真っ平ら.Lusso のメカニックさんに「ドレンはどこにあるんですか?」「あの板を外すんですよ」.なにやらエンジンのあたりにジャッキアップポイントがあって,リフトアーム2本だけでも前後に揺れながら上がるそうです.変わったクルマですね.

とにかくライトウェイトスポーツって理屈ぬきにたのしいです.

ふだん我慢することが多いクルマほど特定のシチュエーションで輝く,という典型をみた思いです.日常の足となるクルマを別に持ち,エリーゼを堪能できる人は幸せです.