ショールーム(グースネック名古屋)で販売した車両が納車整備のためにルッソに入庫しました。 テスト走行と試乗の際に、気になる異音を確認し、原因追及も含めた納車整備依頼をルッソに出しました。以前、16Vでエンジンを壊した経験から、エンジンからの音に関しては神経質になっています。また、ドイツ車を検討していたお客様に手ごわいイタリア車を案内したからには良い意味での期待外れを味わっていただきたいのです。「マイナートラブルは標準装備」と伝えましたが、起こりうる可能性のある致命的なトラブルは事前に対処していくのが私たちのミッションなのです。 ルッソに入庫してタイミングベルト交換の予定なのですが、メカニックのテスト走行時、踏み込んだときに3,000rpmあたりでエンジンからの異音を確認し、その原因を調べることになりました。小さいながらもクルマが訴えかけている声を無視してベルト交換しても、それでは良いクルマはできません。 | |
エンジンの上と下の両方から異音の原因を調べます。 軽症で済む順番で原因を探っていきます。 上からカムカバーを開いてみましたが異状は見られません。 | |
下のオイルパンを外してクランクシャフトが見えるようにしました。 ピストンのコンロッドを外して子メタルの状態を確認します。クランクシャフトを手で回して2番、3番ピストンを一番下まで下げてボルトを外します。 | |
2番(左)と3番(右)の子メタル。 2番が荒れています。3番も多少減っていますが、これならば許容範囲内でしょう。 以前、16Vでメタル破損のためエンジンブローを経験しています。その16Vで聞いた音が耳に残っていて、それが今回の重整備の幕開けとなったのです。 | |
クランクシャフト側の状態。 やはり左の2番が削れてしまっています。これが異音の原因だったようです。子メタルは交換すれば済みますが、クランクシャフトは外して修復する必要があります。つまり、エンジンを下ろしてヘッドを外さねばなりません。 | |
ちなみに、1番(左)と4番(右)の子メタルは問題ありませんでした。 | |
クランクシャフト側も問題なし。 | |
エンジンを下ろす準備に取りかかります。 お客様にとって、この先のデルタとの付き合いを楽しむために避けて通ることのできない整備が始まりました。この整備を重いと感じるか、この先のために必要な整備と感じるかによって、デルタを楽しんでいただけるかどうかが決まってくると思います。 こうしてコンディションは作られるのです。 | |
エンジンルームは補機類がびっしり詰まっています。 | |
分解していく手順はつぎのとおり。
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バンパー、ラジエター+電動ファン、コンデンサーです。 | |
マウントを残すのみとなったところでエンジンを吊ります。 | |
慎重に、ゆっくりとエンジンを下ろしていきます。 | |
下りました。 これはベルト側。 | |
反対側にトランスミッションがついています。 エンジンを下ろしてからの脱着手順は次のとおり。
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ミッションが外れました。 | |
フライホイールが現れました。 | |
外したクラッチケース。 クラッチ板の溝はまだ残っていますが、全体に磨り減っているので交換時期としては良い頃合です。「新たに中古車を買う」という意味を理解できるのではないでしょうか。 | |
心臓が摘出されたボディ。 すぐに元通りにしてあげるからちょっと待っててね。 | |
ヘッドを下ろしてブロックだけにしました。 ピストンがスラッジで黒くなっていますが、これもピカピカにしましょう。 | |
オイルパンを外してクランクシャフトが見えるようになっています。 | |
こちらはヘッド部分。 | |
分解されたパーツたちが積み上がっていきます。 | |
ヘッドの裏側。 手前がインテーク側、向こうがエグゾースト側。バルブの焼け具合が異なり、EXバルブのほうが良く焼けています。問題ありません。 | |
クランクシャフトの2番子メタル部分をラッピング加工(削れた部分をコーティング)してバランス取りしたヘッドが戻ってきました。 | |
一旦クランクシャフトを外して確認します。 すべてのクランクキャップを外します。 | |
外したクランクシャフト。 左から1〜4番シリンダーを黄矢印で示しました。 | |
2番(黄矢印)のアップ。きれいになっています。 | |
ピストン側の2番子メタルも問題なし。 ピストンクーラー(青矢印)でオイルをピストンの裏側から吹出して冷やします。 | |
クランクキャップの親が5個、子が4個。 | |
再度クランクキャップを締め付けます。 規定トルクは親が 20Nm + 90度、子が 25Nm + 50度。つまり、トルクレンチで予備締めしてから、90度(角度)だけ回すのです。 角度を測る道具を間にはさんで回します。
[参考] | |
オイルポンプハウジングです。 中央の穴にクランクシャフトが通って、その回転でオイルを送り出しているわけです。 | |
オイルポンプを取り付けたところ。 その下に丸い穴が開いているのはウォーターポンプ取り付け穴で、奥にシリンダーの外壁が見えます。水が浸っているせいか縞模様になっています。 | |
ブロックにヘッドガスケットを載せました。ALTOと刻印のあるほうが上 (High)です。 シリンダーの縁は真鍮のような金属で巻いてあります。考えてみると、ここは燃焼室ですから、とんでもない高温と圧力にさらされながら、水とオイルの通り道でもあるわけでガスケットも大変です。 | |
ヘッドの燃料室内の汚れも落としました。 | |
10本のヘッドボルトを挿していきます。 ヘッドボルトの締め付けは 20Nm + 50Nm + 90度 + 90度。ガスケットを馴染ませながら閉めていくわけですが、最後の90度はかなり力が要ります。 | |
ウォーターポンプの新(右)と旧(左)。 | |
ウォーターポンプを取り付け中。 一旦固定して手で回してみるとガリガリとひっかかりがあります。稀にブロックに当たることがあるそうで、そのまま組むとエンジンをかけた途端とんでもない音がするとか。一度外してブロック側の当たりを調整します。今度はスムーズに回りました。 | |
これからタイミングベルトを張るのですが、カムのトップはプーリーの切り欠きとカムカバーの突起部分を合わせます。 | |
タイミングベルトとバランスベルトに関わるプーリーとテンショナーです。 クランクプーリーとバランスシャフトプーリーも位置合わせが必要です。 | |
余談ですが、インテーク側のバランスシャフト(黄矢印)です。 丸い棒を半分削ったような形をしています。これで振動を打ち消すように回転させています。 | |
タイミングベルトを張っているところ。 右の直角定規のようなものでTベルトテンショナーを強めに張って、戻しながら固定します。 テンショナーベアリングは中心からずれた位置にネジ穴があって、物理的には左上と右下に張ることが可能ですが、まちがって右下に張ると右側のベルトと干渉してとんでもないことになります。 | |
クランクシャフトを1回転させてタイミングベルトの張り具合をチェックします。 ピストンが4個ついているわりには軽く回ります。期待できそう。 | |
古いタイミングベルト(右)とバランスベルト(左)。 | |
クラッチ板とクラッチケース、レリーズベアリングの新(右)と旧(左)。 | |
新品のマウントたち。 | |
バランスベルトも張りました。 強く張りすぎるとヒュンヒュンと音がするので、タイミングベルトよりは緩く張ってあります。 | |
オイルパンを取り付けます。 小さなボルトがたくさんあります。 | |
新しいクラッチが付きました。 | |
これからトランスミッションを載せます。
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トランスミッションとセンターデフが付いてエンジンらしくなってきました。 | |
ドライブベルトがウォーターポンプ、オルタネーター、パワステポンプを回し、パワステポンプの上にコンプレッサーが載って別のベルトで回します。 | |
エンジンを本来あるべき場所(エンジンルーム)に戻していきます。 | |
エンジンが再び載りました。 下ろしたときの逆の手順で補機類を取り付けていきます。 | |
足回りも元通りになりました。 | |
エンジン回りも組み上がりました。 ちょっと緊張しつつキーを捻ると一発始動。スムーズです。軽く回転を上げたときのベルトの音も問題なし。 | |
試運転して完成です。 最後に、希望ナンバーで登録して納車させていただきます。 |