1995 FERRARI F355 Berlinetta 納車整備レポート (2005/8)

グースネック名古屋でご購入いただいたF355 Berlinettaの納車整備として、タイミングベルト交換等を行います。

この車両がルッソに入庫するのは初めてですが、営業担当から「水温が高め」との報告を受け、メカニックも現象を確認。まずは電動ファンのヒューズやリレーを調べたところ問題なし。リアのタイヤハウス前部にあるラジエターを見ると左ラジエターから水漏れがあることを確認しました。水回りは左ラジエター、ホース、サーモスタット、クーリングファンスイッチ等を交換することにしました。

現在 25,000km で、過去にタイミングベルトは交換されていると聞いていますが、安心して乗っていただくために、ここでエンジンを下ろしてきちっとリセットすることにしました。左の写真はエンジンオイルを抜いているところです。ボディに貼ってある青いテープは保護フイルムです。

3.5リッター V8 DOHC40バルブエンジンを縦置きしたPRシャーシ。

ちなみに、前期型(PA)、中期型(PR)、後期型(XR)の3種類があります。

左リアのタイヤハウス内部。

電動ファンと左バンクの赤いカムカバーが見えています。

これが左のラジエター。

黄矢印部分に水漏れが見られます。内部で詰まって冷却水が漏れるとエアが噛むため、それでクーリングファンスイッチが入らないことが考えられます。

リアバンパー等が外された状態を見上げたところ。
右リアのタイヤハウスの様子。こちらのラジエターは問題ありません。
エンジンの前に燃料タンクがあります。左右にタンクがあるため、燃料ポンプ(黄矢印)も2個あります。
エンジンのうしろ側が分解されていきます。

タイミングベルト交換済というわりにはエンジンルームの汚れが気になります。

今回用意した新品パーツたち。

ベルト一式、テンショナーベアリング、水回りホース、サーモスタット等。

PRシャーシはコンピュータが2個あって各々のバンクを担当しています。

こちらが左リアのコンピュータ(黄矢印)。

こちらは右リアのコンピュータ(黄矢印)。

なぜかカタカタ動きます。ネジがちゃんと締まっていません。

エンジンルーム右端に車台番号の刻印があります。先頭から4〜5文字目にシャーシの種類(PR)が入っています。
ラジエター底面についているドレンから冷却水を抜きます。
インテークの間にある黒い箱が冷却水のサブタンクです。
エアコンのガスも抜きます。
エンジンが下りました。

右リアのドライブシャフトブーツ(IN側)周辺にグリスが飛び散った形跡があったため、ブーツが破れているのかと思ったら破れてはいません。どうも交換したようです。部品交換はしただけで周囲を掃除していないから、いつ汚れたものかわからない。オイルなどの汚れは点検時にきれいにしておけば、万一また漏れたときにすぐに気づきます。クルマは外側だけでなく、内側もきれいにしておかなければいけないのです。

がらんと広大なエンジンルーム。
インテークを外して、続いてスロットルも外します。
V8エンジン前部。

両バンクのカムプーリーにタイミングベルトが1本ずつかかっているのが見えます。オルタネーターやコンプレッサーのドライブベルトはすでに外してあります。

これは左バンクのタイミングベルトです。

たしかにタイミングベルトは交換してあるようですが、エンジンを下ろさずに車上で換えたようです(なぜならボルトを緩めた形跡がないから)し、タイミングベルトしか換えていません(ドライブベルト3本は古いまま)。たしかに「タイミングベルト交換済」は事実ですが、なにか間違っているように感じます。

これは現在の中古車市場では、よほど信頼できる情報を元に選ばないと大きなリスクが伴うという証拠ではないでしょうか。実際、整備履歴のわからない車両はなにが出てくるかわからないため不安です。それならば、思い切ってリセットして良いコンディションを作ればよいのです。その納車整備の様子を画像付きレポートとして納車時にお渡しすることで、お客様に納得していただける1台を作ることができると考えています。

これが右バンクのタイミングベルトなのですが...
こーんなに緩んでいました。指で押さえると1cmくらいの幅で動きます。

これだから自分たちでメンテナンスしていない車両は怖いのです。

だからこそ、エンジンを下ろしてリセットする機会にできる限りの手を尽くして「コンディションを作る」わけです。

左バンクのカムカバーを開きました。
こちらは右バンク。
うしろを振り返ると外したパーツたちが並んでいます。

これはリアバンパーとマフラー類。

インテーク、サブタンク、タイヤ等。
スロットル、ドライブベルト、サーモスタット。
こちらは新品のサーモスタット(左)とクーリングファンスイッチ(右)。

「スイッチ」といっても温度センサーなので太いボルトにしか見えません。反対側はコネクタになっています。

左フロントの足回り。

エアダクトでブレーキローターを冷やすようになっています。

クランクプーリーの脇にRPM/TDLセンサーが2個(黄矢印)ついています。

これはそれぞれ左右のコンピュータにつながっていて、離れて付いているだけ爆発のタイミングをずらしてあるわけです。

この凹凸リングに一部だけ平らな部分(黄矢印)があって、ここでクランクトップを検出します。
タイミングベルトを交換する前に、クランクシャフトを手で回して、合わせる個所を確認します。バルブタイミングは正しく合わせてありました。

右バンクのカムはこの2箇所(黄矢印)。切り欠き位置を合わせます。

左バンクのカムはここ(黄矢印)に合わせます。
クランクにも目印があります。見やすくするために赤いタッチペンで印をつけておきます。

クランクトップで合うようにタイミングベルトを交換します。

クランクプーリーが錆び付いて抵抗に遭いましたが、なんとか外れました。
タイミングベルトテンショナーベアリングを交換するまえに、油圧ダンパーのピストンが飛び出さないようにワイヤーを差し込んでおきます。

これを止めずにテンショナーベアリングを外すとピストンが飛び出してしまいます。

ベアリングがついていた部分は下のボルト部分を支点にして動きます。

ピストンの先端が当たるわけですから、カタカタと小さな音が出ることがあるとか。組む前にグリスを塗っておきます。

万一、油圧ダンパーが壊れたとしてもテンショナーベアリングの張りが緩むことはないのでタイミングベルトが外れることはありません。しかし、前述のカタカタ音が大きくなります。

ベルトとテンショナーがすべて外れた状態。

汚れをできる限り落としてからベルトを張ります。

左のラジエターを交換しました。
上についているのがクーリングファンスイッチ(黄矢印)です。
タイミングベルトが対策品に変わっていて(ベルト内側が白い)固いため、すこし強めに張った状態で馴染ませています。
テンショナーベアリングの張り調整は、さきほど油圧ダンパーのピストンに差したピンが軽く抜ける位置に合わせます。

ただ、これも一度合わせただけではベルトの伸びなどでズレる可能性があるので、時間をおいてベルトを回してから再調整を行います。

再調整後、タイミングベルトカバーを閉め、コンプレッサーベルトをかけたところ。
Vバンク中央にあるトランスミッションオイルクーラーの金属バンドを交換しておきました。

ここは水漏れを起こすことが多い部分なので、ささやかな部品でも重要な役割をもつものは早めに交換しておきます。

上部にパワステポンプがついて、すべての補機ベルトを張り終えました。
カムカバーはガスケットを交換して閉じ、スロットルを取り付けました。
再びエンジンが載ってインテークも付きました。

インテークの入口を軍手で塞いであるのは、ボルトやナット、ゴミ、虫などが入らないようにするためです。万一異物を吸い込んだら大変なことになりますから。

エンジンの下回りもきれいになりました。
いまは見えている補機ベルトもアンダーカバーをつけると隠れてしまいます。
マフラーとリアバンパーを取り付けます。

ボディに傷をつけないように慎重に、慎重に。

エンジンルームが完成し、エンジンに火を入れました。

マフラーが換えてあって、煽るととヴァォン!っと弾けるような、威勢の良い音がします。これもフェラーリの魅力です。

お客様のご要望により、セキュリティ(盗難防止)装置付きのキーレスを取り付けることになりました。

助手席側の配線をしているところです。

サイレンを取り付けました。
こうして作り上げたコンディションはお客様にとっての財産であり、わたしたちがご提供できる最大のオプション装備だと考えます。

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