BX REPORT No.15
ほとんどの日々は何事もなく過ぎていくのですが,クルマに「毎日乗る」ということの意味がわかったような気がします.長く乗っていればこういうこともあるのです.

■ 働き者のBX

BXで出先から戻るときにエンジンをかけて窓を開けようとしてもウンともスンともいいません.どのスイッチを押してもパワーウィンドウが動作しないのです.

「ヒューズでも切れたかな.走れないわけじゃないからいいけど料金所で恥ずかしいな」とのんきなことを考えていたのですが,ふとセンターコンソールをみるとデジタル時計が点灯していません.「アクセサリー電源が来てないんだ」と気づいて,停車したときにイグニッション部分をちょっと動かしたら時計がついて窓も開くようになりました.

無事駐車場に戻りました.エンジンを切ってキーを抜いて,

まだエンジンが動いてる...?

このときの奇妙な感じ,ご理解いただけますでしょうか? キーシリンダーにキーがないのにエンジンが回っているのです.

もう一度キーを差してセルを回す直前とロックポジションをゆっくりと行き来させたのですが,キーシリンダーの感触がヌルっと重くて節度がないんです.「こりゃシリンダーが壊れたかな」.

出先ではないので慌てることはないのですが,エンジンを止めなければなりません.こういうときのためにトランクに積んである工具を取り出しバッテリーのマイナス端子を外しました.でもエンジンは機嫌よく回っています.「オルタネータの電気で動いてるんだ」.そういえばバッテリーがなくてもバイクは走れましたっけ.

動かなくなったクルマを前に悩むという話はよく聞きますが,エンジンが止まらないクルマを前に悩むというのはめずらしい.

これがMTならブレーキ踏んだままギアをつなげば止まりますがATでは無理.「ATはストールしない」のも一長一短.燃料系は触りたくないから電気・点火系でしょう.プラグコードを2〜3本抜けば止まるだろうけどビリっと来るかもしれません.いちばん手っ取り早い方法はなんでしょう? 「残り少ないガソリンがなくなれば止まるけど」と思いつつエネルギー節約のためにルッソに電話しました.

「BXが止まりたくないって言ってるんです」
「働き者ですね(笑)」(こういう切り返しをするのはEワヤマさんです)
「冗談言ってないで止め方を教えてください」

長屋さんいわく「オルタネータにつながっている太いほうのケーブルを外してください.でもそれはプラス側なのでボディと接触させるとバチって来ますよ.注意してくださいね」.ケーブルを外したらエンジンはようやく止まりました.

■ ピックアップ

Eワヤマさんが「夕方ピックアップにいきます」とのこと.

バッテリーの端子を外したままなので4枚のドアを順番にロックしていきます.「あ,トランクはどうなるの?」.トランクも集中ドアロックと連動していてトランクには鍵穴がありません.でも手動ロックのための切り欠きがあってロックすることはできました.

でもトランクを手動で開ける方法は知りません.バッテリーをつなぐ必要があるでしょう.だったら今つないでおきましょう.再度ボンネットを開けてマイナス端子をつないで運転席ドアをロックすると一斉に鍵がかかります.便利な機能ほど故障したときのショックが大きいですね.

午後5時.Eワヤマさんが来てくれたのでオルタネーターの端子をつなぎました.セルを回してもキーの捻り加減で火花が飛んだり飛ばなかったりするみたい.接触がおかしい.エンジンはかかったものの,デジタル時計が見えません.ということは窓が開かない.コンプレッサーは動くはずですがブロアファンが回りません.暑い日向に置いてあったのでBXの車内はサウナ状態.Eワヤマさんにはたいへん気の毒な状況になってしまいました.

しばらくしてEワヤマさんから電話が入りました.

「さっき電動ファンは回ってましたか?」
「そこまで見てませんでした.水温が上がってます?」
「このクルマは水温計がついてないんですよ」
「そうでしたっけ? でもコンプレッサーを動かせばファンが回らなくてもすこしは冷気が出てきませんか?」
「コンプレッサーも動かないんです.ドアを手で開けたまま走れば涼しいですよ.でもウィンカーも出ないんです,もちろん」
「悪化してますね.無事にルッソまでたどり着いてくださいね」

なんだか電気系統が(セルモーターを除いて)キーシリンダー部分でガラガラ崩れていってる感じがします.それでもエンジンはオルタネーターやハイドロのポンプと連動して動いていて自走できちゃう.脆いんだか,しぶといんだか.(笑)