BX REPORT No.18
BXに限らず,不要になった交換部品はもらって帰って分解します.それも写真に撮ってホームページで紹介するという目的もあるのですが,そもそも機械いじりが好きなのです.

本を読むよりも実物を見て触って仕組みを想像するほうが楽しいのです.

■ 仮 説

人間には頭があります.

ですからコールドスタート時の乗りにくさを解消することができないものかと頭を使ってみました.

前回お話した「左足ブレーキ」も回避策のひとつです.でも「なにかいい方法はないかな」と折に触れてはボンネットを開けてキャブレター回りを見ていて気づいたのです.

チョークバルブにつながっているアームは冷えているときは1cmほど動くのに,熱いときはほとんど動かないのです.あちこちからいろんなアームが複雑に伸びているもので仕組みはよくわからないのですが,エンジンが熱いときはなにかがチョークバルブが一定以上閉じないようにブロックしているのです.

キャブレター右側面の写真をごらんください.

針金とスプリングを使ってチョークバルブにつながっているアームAを軽く引くようにしてみました.Aを引くとBが下がってバルブが閉じようとするはずです.それをエンジン停止直後などにはスプリングで引いていてもバルブを閉じることができないのです.

問題はCのスプリングを右(車体前方)から押しているロッドです.

Cのスプリング長を計ってみたところ,冷えているときは33mm,熱いときは29mmでした.スプリングを車体前方から押しているロッドはなぜエンジンの温度によって4mm前後に動くのでしょう?

そのロッドのむこうにあるのがサーモスタットだと考えれば筋が通ります.

このBXは他のお店で整備されたときに「オートチョーク部分は壊れているので外してある」と聞きました.たしかにオートチョークは効きませんでした.コールドスタート時にアイドルアップしないから乗りにくいのです.

「チョークは引いてくれないけれど水温が上がればチョークを自動的に戻してくれる」のであれば「弱いスプリングで引いておけばいい」というのがわたしの仮説です.それなら室内までワイヤーを引き回す必要などありません.

さて,この状態で走ったらどうなるでしょうか.

■ 実 験

翌朝,エンジンが冷えた状態で試してみます.

きわめて稚拙な仕掛けなのでどれくらいチョークバルブを引いておくかは針金をいじるだけでどうにでもなります.すこし強めに引いておきましょうか.

エンジンをかけてしばらくするとアイドリングが 1,500rpm まで上がりました.ちょっと高いですが,そのままスタート.しばらく走るとアイドリングも下がってきました.これなら左足ブレーキは不要です.以後仕掛けのことを意識することなく会社に着きました.ストールの心配がなければBXは快適です.

ボンネットを開けてみるとやはりチョークバルブは一定以上閉じない状態になっています.まだ実験初日なのでこれで数日様子を見てみます.素人が独断でやっていることですから真似をしないでくださいね.完全に的外れかもしれません.

こういうのが「キャブ車ならでは」なのでしょうね.

じっと観察していると微妙な変化に気づくのです.「キャブレターに不要な部品はついていない」と仮定すれば,すべての部分になにか役割があるはずです.実際にはクルマから取り外さないと仕組みがよく見えませんが,断片的な観察結果から推測することはできます.

「そこをこうすればいいだけ.機械なんだからできるよ」とBXがささやいているような気がするのです.「だからキャブ車のほうがおもしろい」のではなくて,いま乗っているのがキャブ車だから「キャブ車らしさを楽しむ」のです.

修理ってなんでしょう?

壊れたから直す.正常な状態に戻そうとする.クルマに楽しく乗るうえでは不可欠だと思います.でも修理すると直ってしまうんです.当たり前なのですが,わがままな子供が急に優等生に変身するみたいで気味が悪いのです.うれしいけれどさびしいのです.

きっと「ないものねだり」なのでしょうね.