今回は RITMO REPORT をお届けするに至った経緯からお話しましょう.
- ■ ルッソのクルマ探し
- 97年11月頃だったでしょうか.Eワヤマさんが「いまサンクのGTターボを探してるんです」.
「だれが乗るの?」
「いや,ちょっと」
「それじゃわからん!」要するに彼は「ちょっと古いクルマ」に興味を持ったわけです.
80年代後半あたりで,安く買えて,しかも面白そうなクルマ.それが条件でした.わたしはくわしいことは知らないのですが,GTターボはフランスのルノー・サンクの最強モデルで,夏などオーバーヒートで苦労することでも有名だったそうです.結構大変なクルマだということがわかったために迂闊に手を出す人は少ないとか.
GTターボを探すにあたっての希望色はホワイトかブルー.仲間に声をかけて探したのですがなかなか見つかりません.一度他の店頭で見つけたらしいのですが売約済みでした.
「ちょっと高いかもしれないけどアルピーヌ・サンクにしましょうか」と月刊誌の「売ります・買います」コーナーを開いています.名古屋市内の人ですが価格応談.こうなると自動車屋さんには見えません.頭のなかはサンクだらけ.「いくらで売るつもりなのか知りたいから明日電話してみます」.
翌日「どうでした?」「わたしにはむずかしいです」.先方にとっては「値段の問題じゃない」らしいのです.またもや敗退.「ぼくはフランスに嫌われてるんですかね」.
サンクを探すのはいいけれどそれをどうしようというのでしょう.
いわく「ちょっと古いクルマがどこまで楽しめるのか見てみたいんです.hisata さん,乗りません?(笑)」
最初はEワヤマさんが自分で通勤に使ってレポートしようと思ったらしいのですが,よく考えてみたら「ぼくにはデキマセン」.忙しいこともあるのですが,そもそも続かないというのです.
いくつかの偶然が重なって,このクルマ探しは「100万円で泥沼にハマる」計画につながっていったのです.「できれば1年間通して乗ってほしい」ということですが,おそらく長くて半年,短ければ3ヶ月くらいではないでしょうか.あえて「長期レポート」と銘打つことは控えました.
ともかく「98年1月からスタート」という予定で,わたしは自宅マンションの空室分駐車場を「入居者が決まるまで」という条件で借りました.そのうち師走になりましたが,肝心のレポート車はまだ決まりません.
「車両を50〜60万円で手に入れて,必要な整備に20万かかったとして,残りをサーキット走行用のタイヤや足回り強化に充てたい」というのがEワヤマさんの腹です.いわゆるホットハッチを中心にした小型車が対象になります.
以前ルッソにあったハチロクもそうですし,日本車にはいろいろありそう.フランス車ではルノーがだめでも「プジョー205は?」「飽きてしまわないですかね」.
どうやらハイパワーで速いクルマがほしいみたいです.個人的には106ラリーが安くなったら乗ってみたい.イギリス車はMGFが安くなるのを待ちましょう.ドイツ車はその値段で買えておもしろそうなクルマは見あたりませんでした.914って高いんですね.
興味のあるクルマが,自分が設定した価格帯に下りてくるのを待つというのもおもしろい.「いまはまだ高いけれどあと2〜3年すれば」という楽しみができます.年式とか走行距離というのはきちんと整備することでリセットできます.ルッソがそういう具体的な提案をできるようにするための「100泥」なのです.
- ■ やっぱりイタ車?
- ふたりとも「やっぱりイタ車になるのかなあ」と思っていたのでしょう.わたしがメールで「イタ車だったらリトモは?」「やっぱりそう来ますか.わかりました.探してみます」.希望色はソリッドブラック.すると,彼が動いた翌日に見つかったのです.
12月18日,リトモがルッソへ運ばれてきました.
フィアットがVWゴルフに対抗して開発したというだけあって,まさにゴルフサイズの3ドアハッチバック.リトモというのはイタリア語で「リズム」.いかにもファミリーカーらしいネーミングです.それをアバルトがチューンしたのが130TC(130馬力ツインカム)なのです.日本ではなぜか「猪」と呼ばれているようです.
「リトモは豪快でよく壊れることで有名だった」と聞いたことがあって「どんなクルマなんだろう」と興味はあったのですが,当時はEワヤマさんにそんなことを言っても一蹴されておしまいだったはず.めぐり合わせっておもしろいものです.
ツイン・ウェーバーの4連ファンネルからブォン,ブォンと威勢のいい吸気音が響きます.ところが走り出すとブレーキは甘いし,クラッチは滑ってる.低速走行にもかかわらず,狭い路地を曲がろうとしたら「う,重い」.ステアリングは重いし,ブレーキが効かないしで慌てました.これは「乗り甲斐」がありそうです.
その日,愛車のアルファロメオ155が天国のように乗りやすかった.それはいずれリトモが自分の元へやってくるということが頭にあったせいもあるでしょう.88年式のリトモと95年式の155.7年でイタリア車もこれだけ進歩したのかと驚きました.ふと「自分にリトモを楽しむことができるのかなあ」という不安がよぎります.
他にも,破れているドライブシャフトブーツやタイミングベルト,油脂類の交換が必要です.部品の手配をして,年の暮れを迎えました.
年が明けて1月上旬,ドライブシャフトブーツとブレーキのマスターシリンダーが交換され,車検と登録準備が整いました.ベルトとクラッチ交換はまた後日.
「あれ,長屋さん,リアのサスペンションにはバネがないんですね」
「ありますよ,ほら板バネ」
「これが横置リーフっていうやつですか」左右に一枚の板バネが通っています.その後,ブレーキ・キャリパーもオーバーホールされて1月30日に「納車」されました.リトモはルッソの「レポート車」ですから,わたしはレポーターになるのですが,Eワヤマさんが「スタートはユーザーと同じでないと意味がないですよね」というわけで,横山さんに「納車前点検整備レポート」をもらって説明を受け,つぎに実車で各部の操作説明をしてもらって2枚のキー(給油口キャップの鍵が別)を受け取りました.
強化クラッチに,強化ブレーキパッド,ブレーキフルードは DOT5 というのはEワヤマさんの「配慮」でしょう.彼は3月7日にリトモをサーキットで走らせるのが楽しみなのです.
わたしもルッソの「広報担当」ですから,みなさんが「興味はあるけれど手を出すのが怖い」クルマの現実をお伝えすべく,ALFA ROMEO 155TS 8V とあわせて「自分のクルマ」として乗ってみるつもりです.リトモは「怖い」という点では不足はないでしょう.(笑)
このレポートを通じて「こんなクルマの楽しみ(苦しみ?)方もあるんですよ」ということをお伝えできればと思います.「泥沼にハマる」かどうかが見所でしょうね.