RITMO REPORT No.4
この連載をはじめるにあたって宣言したことがあります.

「わたしの書く原稿は事前に掲載許可をもらうことはしません」

たとえ事前に見せたところでEワヤマさんから修正依頼が入ったことはいまだかつてありませんから同じことなんですけど,ルッソのスタッフもみなさん読者とおなじ立場にいるのです.リトモについて感じたことは hisata の本音を綴っていきます.

■ 古いクルマなんて

中古のミニに懲りて新車の155を買ったので,まわりで旧車を楽しんでいる人たちをみてもピンと来ませんでした.「それなりに苦労するだろうに何がそんなに楽しいんだろう」ってね.

いま思うとミニはほとんど現状渡しだったのがまずかったですね.またミニの専門ショップから購入したわけではないので注意すべきところなども教えてはもらえませんでした.よくわからずに買ったもので不安すら感じてはいなかったのですがお金だけはしっかりとかかりました.

その点リトモは大切なところは部品を交換し整備してありますから,いきなり大事に至る可能性は低いでしょう.でもルッソとしてもわからないことは「わかりません」と言います.ここまでは大丈夫だろうけど,ここからはわからないという線引きがされて,普段乗るにあたって注意すべき点を教えてもらう.それだけでもユーザーはずいぶんと気が楽になります.用心はしながらも必要以上に恐れないことが大切でしょう.そうでないと楽しめませんからね.

リトモもあら探しをすればいっぱい見つかります.

ドアのキーシリンダーは樹脂製の台座ごとグラグラしてるし,オートロックは左右連動していないし,ロックしてキーを戻した途端アンロックされたりする.フロントのウィンカー部はガタガタ動くし,ドアまわりには錆も出てる.室内の天井は剥がれて垂れ下がってきてるし,頭上のルームランプ部も外れかけてます.ダッシュボードの下からピーって音がするし,アクセサリ電源の配線は行方不明で,デジタル時計は壊れてる.サイドブレーキが甘いから坂道ではギア入れは必須.リアトレイは経年変化で曲がってきてるし,ボディの細かい傷なんて数えたらキリがないし,板金した形跡も見られます.厳しい見方をすればポンコツ車です.ルッソのレポート車にならなかったらスクラップになる運命だったかもしれません.

でも洗車してすこし離れたところから見れば十分きれいです.目立つ傷はありませんから「ヤレてはいても大切に乗ってる感じ」がするのです.見るからにボロボロでは気分が悪いけれど,これなら問題ありません.目についたところはチャンスがあれば直してみたいけれど必須じゃない.些細な部分にこだわっていてはこんなクルマには乗れません.

じつはそこが不安だったのです.故障の不安と闘いながら不具合を気にしていたら楽しいはずがありません.でも自分でも不思議なくらい,すんなりとリトモを受け入れることができました.それはなぜでしょう?

それはおそらくわたしが無意識のうちに見方を変えているからでしょう.

155とおなじ見方をすれば気になることが続出しますが,細かいところははじめから頓着していないのです.「そんなものだろう」と納得してしまってる.見るべき点は「走る」「曲がる」「止まる」とヒーターが効くかどうかくらい.そういうマクロなフィルターを通してリトモを見てるし,意識的にリトモの良いところを見ようとしてる.

そういう見方ができるのも(手前味噌な言い方になりますが)ルッソのスタッフを信頼しているからでしょうね.もしもトラブルがあっても助けてもらえるという確信があるから安心して乗れるのです.長屋さんが整備してくれたのだから万が一にも止まらなくなることはないだろうという信頼.そうして「リセット」されたクルマへの信頼.プロとリスクを分け合う関係がわたしを精神的に支えてくれています.

Eワヤマさんも心配して電話してきます.「どうですか? 大丈夫ですか?」.Eワヤマさんはリトモに数回しか乗っていないので見切れていないというのです.「大丈夫じゃないですかぁ.動かなくなったら電話してますよ.レポートを見てまずいと思ったら教えてください」.わたしもずいぶんアバウトになったものです.(笑)

■ はじめてのハイウェイ

東名高速の名古屋から三ヶ日まで走ってきました.

名古屋ICの料金所を抜けたところの右ループで内側についてアクセルを踏んでいくと「お,なかなかいいじゃない」.ほとんどロールせずにピタっと安定しています.3速で加速しながら合流し,4速で引っ張っていくと「おお,気持ちいい〜」.

名古屋から岡崎くらいまでは交通量が多いので追い越し車線も流れにあわせて走るだけ.風切り音がするけれどこれくらいなら許容範囲.街乗りでは重くて仕方ないステアリングも高速では安定感があります.とくに轍に取られることもなく,このクラスとしては直進性も問題なし.

5速 3,000rpm ちょっとで 100km/h.いままで気づかなかったのですが,20km/h を超えても速度計の針はメータースケールで 5km/h ほどの幅で揺れています.速度計は 220km/h まで目盛りがあります.5速 4,000rpmで 130km/h なのですが,120km/h を超えると針の振れがぴたっと止まるのです.これはどういうことでしょう? 以後タコメーターを見て走ります.

豊川の検札所で一旦停止.1速で発進し,2速,3速,4速と 4,000rpm リミットで加速していくと気持ちいい.街乗りではブォンブォンいってたウェーバーがクォ〜ンと鳴くのです.高速を走って気づいたのですが全体にローギアード.高速を巡航するGTカーではなく引っ張って乗るためのセッティングです.

155では高速に乗るとシートを倒すのですが,リトモでは背もたれを倒しただけで5速へのシフトがつらくなります.5速はシフトフィールが悪くてきちんと入れないと入らないのでなおさらです.ステアリングはチルト機構付きなのですが,上げても下げてもポジションはほとんど変わりません.シートを前に寄せて背もたれを立てて,きちんと腰を引いて座るのが正しいポジションのようで「のんびりポジション」は取らせてもらえません.

水温は街中では90度弱なのが高速巡航では70度.真冬はこれくらいでしょうか.メーターパネルには他にも油温,油圧,燃料,電圧計とにぎやか.プラスチック製のダッシュボードもチープではあるけれど安っぽい感じはしません.そうそう,ダッシュボード上面の左端に155から移したレーダー探知機もあります.太陽電池式でマジックテープで固定してあるので載せ換えもカンタンです.

三ヶ日ICで下りて南へ向かいます.

浜名湖レイクサイドウェイの直線で後続車がいないことを確認してブレーキテスト.ステアリングが振られることはありませんが止まりません.「止まる」というより「減速する」だけ.何度か試してみたのですがこのブレーキパッドは暖まらないと話になりません.155に付けた ENDLESS のパッドも街中では効かないのですが,高速走行で一度つよく踏めばつぎからグっと食いつきます.リトモのそれはそういう感じがない.ローターを撫でているだけ.新品だからもうすこし使わないといけないのかもしれません.制動力不足は高速だからであって街乗りでは問題ありませんが,いずれにせよ車間距離を十分取って走りましょう.

それにしても一般道で路面が荒れていると最低の乗り心地です.以前足回りを変えたハチロクがピョコンピョコンと跳ねていたような不快感はないのですがとにかく固い.ところが軽いワインディングで踏むと「お,これはいいぞ」.名古屋ICのループを思い出します.エンジンの回転とスピードと足回りがぴったり来ます.ワインディングが楽しい.

「なるほど,これがリトモのリズムなんだな」

尖ったクルマほど限られたシチュエーションで光ります.共鳴する周波数帯域が狭い.足回りの固さも重いステアリングも安定したコーナーリングのためにあり,胸のすく加速もスピードに乗るためにあるのです.これは3月のサーキット走行が楽しみです.でもスピードが落ちると加速に時間がかかります.いかにスピードを殺さずにコーナーをクリアするか.そこにかかってくるでしょう.

こうなると気になるのがシートのホールド.固めのシートは街乗りにはよいのですがサイドのサポートが甘いのです.それに左足のフットレストもありません.4点ベルトで締め上げるしかありません.サーキットではルッソのスタッフは全員リトモに乗ってみればいい.絶対にSタイヤを履かせましょうね,Eワヤマさん.

名古屋まで戻ってきて市街地に入るとキャブレターの音が以前よりヌケた感じがします.時々回したほうが調子がいいのでしょうか.が,信号で停止して発進するときに1速に入れようとするとガリっ.こんなことはきのうまではありませんでした.いくら 4,000rpm リミットでも調子に乗りすぎたのでしょうか.軽く2速に当ててから1速に入れるようにしましょう.またできればダブルクラッチを踏んだほうがミッションには優しい.どうやらミッションをいたわってあげたほうがいいようです.サーキット走行なんかしたらガタガタになるんじゃないかなあ.イヤだなあ.

しかしそれもリトモに課せられた使命です.走行会にはロータス・エリーゼも来ます.ああいう場所を走るためにあるようなクルマですからリトモでは太刀打ちできません.クラス分けして横山さんのジュリアクーペと走ってみたい.腕は向こうのほうが上ですが,さてどうなりますやら.

でも本当はリトモが他のクルマと比べて速いかどうかなんてどうでもいいのです.

リトモが本来持っている性能を発揮できるシチュエーションやドライビングで引き出してやることが「リトモを楽しむ」こと.リトモが望むリズムで走らせてやるときにきっと最高の持ち味を発揮するのでしょう.

新しい発見があったのはうれしいのですが,翻せばそれは「街中をちまちま走るクルマじゃない」ということであり「かなり乗りにくいクルマ」だということ.実用車をちょっとチューンしたクルマだと思っていたら実態はかなり尖ったクルマでした.

Eワヤマさんはこのレポートを読んで「オレの選択眼に狂いはなかった」とよろこぶでしょうけど,レポーターのわたしはたいへんです.高速を 200km 走っただけでヘトヘトです.サーキットを30分ぶっ通しで走ったあとみたいだし,フェラーリを運転したあとのような疲労に襲われました.リトモを下りても2時間は身体に振動が残っていました.それくらい緊張感と刺激があったということでしょう.こいつに比べれば155は安楽なクルマ.4ドアセダンとしての実用性を損なわない程度に刺激的です.妻に頼んで明日は155と交換しようかなぁ.(笑)

今回の結論.

ゴルフGTIやプジョー205,106ラリーなどを「ホットハッチ」と呼ぶようですが,そこに130TCも加えてほしい.ベースは実用車なのですがこいつは十分ホットです.