リトモというクルマのことをどれだけレポートできたかわかりませんが,この連載も次回が最終回の予定です.
- ■ 枝葉末節レポート
- キーを持って駐車場へ向かいます.雨上がりだとリアの樹脂スポイラーやサイドウィンドウのところに水が溜まってて「これじゃ錆びるよな」.
キーシリンダーは丸い樹脂性台座ごとグラグラしてる.気にせずキーを差し込んで左にひねるとガシャっと左右のロックが外れます.ともするとキーを垂直に戻した途端またロックされてしまうので右にひねったままノブを引いてドアを開けてしまいましょう.これがドアを開けるコツです.
ノーマルシートならなんでもないことですが,OMPのバケットシートの場合,お尻をうえからドンっと落とすことになります.優雅に腰を下ろそうなどと考えず勢いよく乗り込みましょう.そしてドアをバキャンっと閉めます.剛性感などという言葉はリトモには似合いません.
サイドブレーキが甘いのでギアを入れて止めてあります.クラッチを踏んでイグニッションをひねるのですが,これが坂道だとクラッチを踏んだ途端ずるずると動き出すのでブレーキを踏んでいなければいけません.ついでに寒い朝は一度ではかかりませんから右足でアクセルを煽りながらセルを回しましょう.え,右足はブレーキ踏んでるって? それじゃ踵でアクセルも踏んでください.一度ブォ〜ンと回ってしまえば大丈夫.
エンジンルームから盛大な吸気音が響いてきたらそれはエアクリーナーカバーを外してある証拠.そのほうがブォンブォンと楽しいと思いますが具合が悪いときは赤いカバーを閉めてください.格段に静かになります.
クラッチもシフトも軽いのですが,ステアリングだけは重い.車庫の出し入れはつらいものがあります.縦列駐車でうしろにピタっと寄せられたときは脱出するのに苦労しました.また発進時に1速に入れようとするとガリっと鳴ることがあるので2速をなめてから1速に入れるようにしましょう.ガリっとやったからといって即ミッションが壊れることはありませんがあの音は精神衛生上よくありません.
パワーウィンドウのスイッチはセンターコンソールにあります.料金所などでは助かるのですが,開閉がスローモーションなのです.「もうすこし速くてもいいんじゃないの?」と感じるのはワイパーもおなじです.
エンジンが暖まるまでは信号待ちでアイドリングが下がってストールしそうになります.実際にストールしたことはありませんが,心配であればアクセルペダルに踵を軽く乗せておきましょう.
真冬でも10分くらい走れば水温計の針が動きはじめてヒーターも効きます.クーラーも装備していますが,真夏になると能力不足で効かないかもしれません.コンプレッサーが回るとアイドリング回転数が下がり,これまた「トウ&ヒール」を要求されます.こうなると「ヒール&トウ強制ギブス」.右足首の柔軟体操くらいにはなるでしょう.キャブレターですからアイドリング回転数の調整はネジ1本回すだけですが,アイドリングを上げてしまうと逆に騒々しいことになります.
130TCにはじめて乗った人はステアリングの重さのつぎに乗り心地の固さに気づくはず.荒れた路面には閉口します.リアのリーフスプリングが目に浮かび,つぎに西部劇に出てくる馬車が目に浮かぶのです.(笑)
高速道路の巡航もパワー不足を感じることはありませんが,音と振動にドライバーがどこまで耐えられるかで上限が決まります.そこでオーディオを聴くには思い切ってボリュームを上げなければなりません.
どう贔屓目にみても快適なクルマとはいえません.でも気合いを入れてワインディングに持ち込むとこれがおもしろいのです.ステアリングの重さなんて感じません.「なんだ曲がらないぞ!」と悪態をつきながらも頬がゆるんでしまう.リトモってそういうクルマです.
- ■ リトモが教えてくれたこと
- それは中古車の楽しみ方です.それにはふたつのポイントがあります.
第1のポイントは「車両価格」について.
新車には新車の楽しみがあるのですが,1年も乗ると車両価格がぐんと下がって理不尽な思いをします.メーカーのつけた値段と市場ニーズにはギャップがあるわけです.中古車市場もうさんくさい部分がありますが,販売店とユーザーとの綱引きで相場が決まるだけリーズナブルです.待てば海路の日和あり.乗りたかったクルマが手頃な値段になるのを待つ楽しみもあります.
たとえば新車価格600万円,数年前まで3年落ちで300万円したクルマが200万円になっていたらおもしろいと思いませんか? 「不人気車」というだけで相場はぐっと下がります.世間の人気と自分の好みは別.きちんと整備してやればちゃんと走ってくれるクルマもたくさんあります.安ければセカンドカーとして自分の遊びクルマにすることもできます.ただ安いのはいいけれど「売りっぱなし」の販売店もあるので要注意です.
第2のポイントは「古さを楽しむ」こと.
先の「車両価格」は単純な経済学でしたが,今度はちょっと複雑です.
いままで長屋さんと話していてもルノー5,プジョー309などで「水を吹いた」「雨の中で止まった」などと聞くにつけ「いったい何がおもしろいんだろう?」と疑問でした.いくら安くても「お金を出して苦労を買ってる」ように思えたのです.安いというだけではそんなクルマに手を出したくありませんでした.
でもリトモに乗ってみて長屋さんの気持ちがすこしわかったような気がします.
リトモにしても新車当時をイメージして細部をチェックすると買う気になれないと思います.でも動かなくても困らない部分は気にしなければいいのです.たとえば10年も経っていればヤレていて当然.ヤレてるんだけどちゃんと手入れされているか,ろくに整備もされてなかったのか,何台かみるうちになんとなくわかるようになってきます.
故障すると高くつく部分(エンジン,ブレーキ,ミッション等)を重点的にチェックすればいい.タイミングベルトなど怪しい部分は最初にやり直せば当面は安心して乗ることができます.最初にやっておけばトラブルの続出を防ぐことができます.おかげでリトモは想像以上にまともでした.
そうして今のクルマとはちがう「古さ」を楽しんでしまえばいい.パワステもブレーキのマスターバックもABSもついてない.ましてやエアバッグなんてないから好きなステアリングに換えればいい.キャブレターを自分でいじってみるのもいいでしょう.
「そんな安全装備の何もついていないクルマは怖くて」だめですか?
これは私見ですが「安全装備」というのはあくまで保険です.万一の際に役立つかもしれませんが当てにしてはいけません.「ABSがあるからスリップしても大丈夫」じゃありません.雨の日はすぐには止まれないのです.
ドライバーはアナタです.クルマの性能や自分の技量を頭に入れて,安全マージンを確保しながら操作すれば問題ないのではないでしょうか.衝突してから開くエアバッグではなく,歩行者に衝突するまえに(車外で)開くエアバッグがほしい.わたしはそう思います.
古さを楽しむには精神的なゆとりが必要です.それはそれは贅沢なことなのです.
幸いにしてリトモは「それじゃ9時に行きますね」と約束ができますが,もっと古いクルマになると約束ができません.出発できるかどうか,出発できたとしても目的地にたどり着けるかどうかわからないのです.これは冗談ではなく実話です.現代社会において「何時にどこで」という約束をしない.こんな贅沢があるでしょうか!
「朝一番にエンジンがかからなかったらと思うと怖くて」だめですか?
砂漠の真ん中じゃあるまいし,動かなければ歩いていけばいいじゃないですか.携帯電話とJAFの会員証があれば出先で止まってもなんとかなります.便利な世の中ではありませんか.
これをジョークと受け流せるかどうかがポイントですね.