ALFA ROMEO 156TS selespeed

いま,わたしは東京で164に乗っています.155の8Vエンジンが好きだったのですが,都内の渋滞にくじけてATに乗り換えたわけです.しかしトルコンだけはいまだに馴染めません.単に移動するだけ,動きさえすればいいというのであれば構いませんが,ドライブフィールを楽しむという点ではトルコンは大きな壁になっています.

だからセレスピードはまさにわたしのためにあるようなシステムなのです.クラッチはないけれど,ちゃんと5速のギアで変速していく.トルコンもありません.そこにEワヤマさんの「セレスピード考」を読んで乗りたくなってしまいました.156は以前V6に乗ったので,今回はセレスピードに的を絞って書いてみようと思います.

『F1カー搭載の5速シーケンシャル・トランスミッションを、量産モデルに初めて採用。思いのままにシフトコントロールが愉しめる革新的トランスミッションが「SELESPEED」だ。スムーズなシフトダウンを可能にする「ダブルクラッチ効果」等、数々のテクノロジーを導入した電子油圧作動式クラッチのダイレクトなレスポンスに加え、プッシュボタンまたはジョイスティックによるシフトチェンジが、スポーティな操作性と高い安全性を実現。ボタンひとつでATモードにも瞬時に切り替えられる。車を駆る歓びをドライバーの掌に収め、強烈な個性に更に磨きをかけたALFA 156。パワー 意のままに、フォルム 美のままに。』

これがセレスピードのうたい文句です.実際のところを体験してみましょう.

真っ赤な156はまだ走行距離8,000km.室内にはまだ新車の香りが残っています.

まずセレスピードの操作を教えてもらいました.左手でシフトレバーを右(手前)に倒せばニュートラル,上に倒すとシフトアップ,下に倒せばシフトダウン.ニュートラルから下に倒すとバック.タコメーター内の液晶に現在のギアが表示されています.

さて,発進です.1速に入れてサイドブレーキを外して,フットブレーキを離すと,それだけでは動いてくれないのでアクセルを軽く踏んでみます.あれ? 微妙な調整がむずかしいですね.ふつうのATに馴れた身体には変な感じ.

ルッソを出て「クラッチがないからボタンを押せばいいだけなんでしょ?」と軽く考えても,異質なものに対して構えてしまうし,身体は緊張で固くなっています.その後,「へ?」「おい」「コラ、待て」「なんで??」「勘弁してよぉ〜」.まったく息が合いません.おまけに,なんかハッキリしない,ウジウジした奴です。クラッチをつなぐのかつながないのか,シフトするのかしないのかハッキリしてくれ! こんなのイヤだぁ〜!

と,hisataとしては珍しく泣きが入ってしまいました.(苦笑)

なんと申しますか,第一印象は「4輪スクーター」.原付スクーターの自動遠心クラッチを思い出してしまいました.渋滞でトロトロ動くのは苦手.ちょっと踏んでゴンと前に出て,また切れて,ギクシャクします.これならスクーターのほうがスムーズ.

それに青信号で発進して2速にシフトするのですが,なにも考えずにボタンを押すと前につんのめってからシフトするのです.ウ〜ンと力んでいる間,速度が落ちてしまいます.3速に入れてもウ〜ン.ここはEワヤマさんのいうように,シフトアップ時には一旦アクセルを戻したほうがスムーズです.

速度が落ちると勝手にシフトダウンするし,停止すると自動的に1速に落ちます.ですから通常走行ではシフトアップだけしていれば事足りるはず,なのですが,逆にいうと,停止しないと1速に落ちない.交差点で右折レーンに入って徐行して,ちょうど対向車が途切れたから「さぁ行くぞ」とアクセル踏んでもモワ〜っとして前に出ない.オイ,次のクルマが来ちゃうよ.なんと2速なんですね,これが.あのねぇ,アナタ...こりゃ相性悪いかな.

Eワヤマさんはステアリングについている+と−のボタンは使いづらいとおっしゃっていましたが,わたしはそうでもありません.直進しているときは両手でステアリングを握って,指先ひとつでパチパチと上げたり下げたりするのも愉快です.ただ,曲がり角ではだめです.ボタンが消えます.

しばらく乗っているうちにわかったのですが,たとえば発進加速でも思い切って踏んでいけばスムーズです.リズムに乗れます.MTで運転することを想像して,シフト直前にアクセルを戻してからボタンを押すのです.そうすればさほど違和感はありません.渋滞や車庫入れなど,トロトロ走るのは苦手,というか,そんな走り方は想定してないのではないでしょうか.大雑把なのがアルファらしいというか,らしくないというか.

でもクラッチがないのはラクチンです。坂道発進も怖くない。(笑)

自分だってシフト操作は上手じゃないのに機械には完璧を求める。それはセレスピードにも酷です。それはわかっています。

さて,誰もが絶賛するシフトダウンです.

5速から−ボタンを続けて3回押すとフォ〜ンと勝手に回転を合わせて2速へシフトダウンしてくれます.なるほど,これがそうなのか.まさに回転合わせは完璧ですね.かなり派手な空吹かしなので,大きな音がするマフラーに換えたりして,赤信号で停止するときにコレをやると注目の的になること請け合いですね.

それはいいのですが,なにかちがう.なにか変です.そう,回転が合いすぎててシフトダウンした実感が皆無なのです.わたしがマニュアルで乗るとき,カーブの手前でシフトダウンするのはそのエンジンブレーキも期待していました.それはバイクに乗っていたときからの癖です.

セレスピードでシフトダウンするということは,おなじ道をおなじ速度で走るのに2,500rpmがいいか,3,500rpmがいいかの選択に過ぎません.3速のままならば2,500rpmだけど,回転を上げて走りたいから2速に落とす.やっぱり変だぁ〜.

変なのはわたしなのでしょうか? シフトダウンしてもエンジンブレーキが効かせるのは間違っているのでしょうか.そういえばシフトダウンしたあとアクセルを戻したままなのにエンジンブレーキがほとんど効きません.ATのような空走感があります.おかしいなぁ.ツインスパークはもっと気持ちのいいエンジンのはずなのにアクセルを踏んでも戻しても,どうにも気色が悪い.

たしかに踏めば回るし,それらしい音も聞こえてくるのですが,アクセルを踏めば回転が上がって加速し,ちょっと緩めれば回転が下がって減速するという,わたしが求めるダイレクト感がありません.わたしがセレスピードに期待したのはトルコンを介さずにギアでつながるダイレクト感だったのに,です.

試しにCITYモードにしてみました.ふつうのATっぽく,ポンポンとシフトアップしていき,どこまで行くのか思ったら5速まで行ってしまいした.自分では3速までしか使わない市街地走行でです.これは冗談みたいなモードです.

聞くところによると,156のアクセルは電子制御だとか.だからアクセルの踏みしろが少ないのでしょうか.ぐっと踏むとすぐに底を打ってしまいます.なんだか今回,クルマが遠く感じました.クルマと仲良くなるのがすこしは上手になったと自分では思っていたのですが,セレスピードとは仲良くなることができませんでした.これだったら164のATのほうがマシ.

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164に乗るまではATが大嫌いでした.

でも,いまは「ATでも乗り方次第で楽しめる」ことを知ってATそのものに対する抵抗はなくなりました.そして,おなじATでもシフトスケジュールを把握することで上手にエンジンのパワーや魅力を引き出す醍醐味も知りました.それは164のおかげでもあるし,その知識はDD6レポートでも役に立ちました.

WEEKEND試乗ではわたしには乗りこなせませんでしたが,このセレスピードも時間をかけて癖やパターンを掴めば,もっと上手に乗れるようになると思います.セレスピードには期待しているので,アルファには今後も煮詰めていってほしいと思います.