「どうM3は? 速い?」.これが困るのです.誰が乗っても速く走るクルマではないように思います.ちょっと古いV8フェラーリが速いか.わたしの知る限り「その気になれば速く走らせることもできる」けれど,安楽に速いクルマではありません.つまり,速いのはドライバーであってクルマではありません.だからM3が速いかどうか訊かれると「いいえ」と答えます.わたしは速くありません.

■ 悍 馬

積極的に踏んで走らせる.そうしたほうがM3らしい動きをするような気がします.多少うるさくても,それが異音でない限り気にせずに踏み込んで,クルマの挙動を感じながら走らせる.たぶんEワヤマさんもそうやって乗っていたはずです.

初日に東名高速を走りながら思ったのですが,このM3の揺れ方というか,足回りの加減,乗り心地は「レースカーはこれをもっと固くした感じなのだろうな」と思わせるものでした.コトコトとずっと揺れているから快適とはいえないけれど,クルマは自分の思い通りの方向へ進んでいる.接地感は思ったより希薄だけど,浮き足立った感じはしません.

No.2に書いた左カーブでは,アルファロメオでは外に引っ張られる横Gが怖くてスピードを殺さなければなりませんでした.それがM3ではロールしながらも横Gが弱くて,ほんのすこしステアリングを左に切れば,すっと向きを変えていってくれる身軽さがありました.背が高いわりに重心位置が低いように感じたのです.

わたしが乗っていたALFA ROMEO 155も2リッター4気筒エンジンと,M3と似ています.パワーはそれほどありませんが吹け上がりの気持ちいいエンジンでした.ところが低速トルクが細くて発進で気を抜くとストンと止まってしまいます.M3はそれほどひどくはありませんが,それでも2,000rpm以下は使い物になりません.トルクで引っ張るクルマではなく,回して走るタイプでしょう.

ある意味でDD6と対照的ですね.ジャガーはおおきな鳥みたいですが,M3は気性の荒い馬みたい.そんな悍馬を乗りこなすというより,付き合い方を見つけたいのです.踏んでも味気ない,つまらないクルマは数あれど,踏むのに気合が必要なクルマはめずらしいですからね.