BX REPORT No.25
梅雨の晴れ間のつよい日差しにBXが溶けてしまわないかと心配です.自動車ってずいぶん過酷な環境のなかで働いているんですね.たいしたものです.

BXレポート最終回をお届けします.

■ 3ヶ月が残したものは

No.1 では「レポート期間は長くて1ヶ月」だと思っていましたし,どんなに長くてもBX19TRSというモデル名に引っかけて連載は19回で終えるつもりでした.

それが3ヶ月で25回まで続いたのにはいくつか理由があります.

  1. 酔いそうな乗り心地にもじきに慣れた
  2. 短期レポートではなにも起こりそうになかった
  3. ワクワクすることはない代わりにラクチンだった
  4. 足代わりには適度にユニークで適度に快適だった

長く乗るにはフツーのクルマがいい.スポーツカーのように尖ったクルマって楽しい反面,用途が限られます.「それじゃフツーのクルマはあまり楽しくないの?」というのがBXレポートのテーマのひとつでした.

BXは「すごく楽しい」といえるクルマではありませんでした.でも乗る気になれない自動車が多いなかで「乗ってみよう」という気になりましたし,No.8 に書いたように「きれいに曲がること」を心がけることで楽しむことができました.エンジンが非力だといっても始終気になるほどではありませんし,ハイドロだって騒ぐほどのものではありませんでした.悪口を言っているのではなく,だからこそ長く乗ることができるのだと思います.

4月には(リトモと比べて)「BXだから大丈夫だな」と感じていた信頼感はいまでは揺らいでいます.それもクルマのコンディションはすこしずつ変化するものだと思えば自然なことなのでしょう.クルマは「壊れることもある」のです.オーナーの工夫でどこまでカバーできるか試行錯誤してきましたが,ハイテンションコードはなにも言わずに交換したい.雨上がりの今朝もボンネットを開けてコードを押さえないとエンジンが始動しませんでした.

実用車というのは「安心して乗れること」がモチベーションを支えていますから,トラブルや乗りにくさは最低限に抑えないと嫌になります.安いからといって飛びつくと(趣味にはなっても)実用にはならないでしょう.世の中には「壊れない車なんてつまらない」という人もいらっしゃるようですが,わたしは壊れないクルマが大好きです.

リトモに続いて2台目のキャブ車ということで,メカに疎いわたしもすこしは耐性ができてきました.キャブって一長一短です.わたしはつぎの教訓を得ました.

いじることができると,いじる羽目になる.

どっちがいいかは人それぞれ.わたしはどっちでもいいです.そもそも燃料系の仕組みでクルマの性格がすべて決まるわけではないでしょう.「当時のクルマはこうだったんだ」ということを知り,受け入れ,楽しめばいいのです.

「楽しむならいまのうち」というクルマを掘り起こすのも愉快です.あと5年経ってもBXは残っているでしょうがリトモは朽ちていくでしょう.妙に聞こえるかもしれませんが中古車にも旬があるのです.

■ 10年物としてのBX

これから10年物に乗ろうとする方は「思い入れ」をもって「思い込み」を捨てましょう.

壊れる心配ばかりせずに,リセット整備を施したなら先入観を捨てて乗ってみましょう.愛情をもって接すれば「なんだ,大騒ぎするようなことはないじゃないか」ということになるはず.それがリトモ&BXレポートの実感です.

クルマが「楽しい」ことと「楽しむ」ということは別だということをBXは教えてくれました.つまり「楽しいクルマじゃない」から「楽しめない」とは限らないし,だれがみても「楽しいクルマ」なのに「楽しめない」人もいます.

原則としてクルマ自体が「楽しい」ほうが「より楽しめる」のです.

BXよりはリトモのほうが楽しいクルマだと思います.でもリトモをリトモらしく楽しむことができる人は限られます.BXのほうが広く受け入れられるのです.どちらを「より楽しめる」かは人によってちがいます.無理をしても続きません.

わたしのように「スポーツカーは好きでも所有するのはなにかと気が重い」という場合,実用的なベース車にマニア(おたく)心をくすぐるチューンが施してあるスポーツモデルがちょうどよいのかもしれません.でもエアロパーツを付けただけなんてダメですよ.「羽」がなくても空は飛べます.格好もたいせつだけど見かけ倒しじゃダメ.

結局BXに乗っただけではフランス車がどうということは言えませんでした.

物の本には「フランス人の合理主義が云々」とありますがわたしにはよくわかりません.「フランスには高級車はない」とも聞きます.ほんとですか? 「タキシードやドレスを着て小型車でパーティに出かける」そうですがBXではとてもそういう気分にはなれません.そういうときはマセラティがいい.

とはいえ,おなじ足代わりといってもドイツの実用車よりは趣味性(洒落っ気)がありますし,淡々とした軽さに魅力を感じる人は長く付き合えるでしょう.BXは「趣味の足クルマ」です.

わたしにとっては「10年前のキャブ車だって悪くない」「ATでもいいかな」と思えるようになったのが収穫でした.

hisata 個人の「理想のクルマ探し」の一環としてはリトモもBXも対象にはなりませんでした.いつか「これだ!」というクルマに出会いたい.まあ,慌てることもないでしょう.「教科書」をめくりながら探します.

この3ヶ月間付き合ってくれたBXに御礼を言いたい.短い間でしたが愛着が湧いてしまいました.BXってちょっと偏屈なところもあるけれど性格はさっぱりしていて,いい奴です.でもEワヤマさんの指に噛み付いたのはまずかったですね.(笑)

そして読者のみなさんも連載に最後までお付き合いいただき,ありがとうございました.機会があればまたお会いしましょう.

次回は番外編をお届けする予定です