黒いボディは,ピカピカだとかっこいいのですがひと雨降ると汚れが目立ちます.そんなときはバケツに水をいっぱい汲んで,ざっと汚れを洗い流してからセーム皮で水気を取ります.

■ リトモとの契約
リトモはハンドルは重いし,寒いとエンジンがかかりにくいし,路面の凸凹で跳ねるし,シフトにコツが要るし,回転域によって息継ぎするし,低いギアで下手に踏むと滑るし,気になることはいろいろあります.

絶対壊れないといっても過言ではないような昨今の乗用車とくらべればとんでもないクルマでしょう.だけどちょっと待ってください.その「気になること」は許せないものでしょうか?

わたしだっていつ止まるかわからないような状態では我慢できません.立ち往生の危険を感じながら交差点で右折待ちするなんてイヤです.幸いなことにいまのリトモはそんなことはありませんから,先に挙げたような部分は「こっちでカバーしてやろう」という気持ちになれます.

これはわたしとリトモとの契約であり役割分担なのです.「ここまではあなたの仕事,ここから先はわたしの仕事」と割り切ってしまえば走ることはクルマとの共同作業です.

リトモみたいなクルマに楽しく乗るコツは「こちらから歩み寄ってあげること」ではないでしょうか.

「アクセルを踏んだら遅滞なく加速し,こちらの指示どおりに曲がり,ブレーキを踏んだらなにがあっても停止すること」なんていう契約書を突きつけたらリトモはハンコをつくことができないでしょう.

「わたしの肺はキャブレターなので即座に全力疾走はできません.またあなたをやさしく快適に運ぶような足も与えられていません.いまのところ心臓疾患はありませんが,すり減った靴を替えないと滑って転ぶかもしれません.それでもよければ乗ってください」とリトモは言うでしょう.

これでは召使いとしては落第ですが,相棒としては愛嬌があっておもしろい.正直なところを買いましょう.(笑)

ただし甘やかしてばかりはいられません.こちらから歩み寄ることのできる範囲には限界があります.ある一線を越えると我慢できなくなって縁を切りたくなります.だから楽しく付き合うためにメンテナンスするのです.転ばぬ先の杖をつくのです.バッテリーが上がって動けなくなるのがイヤだから早めに交換してしまうのです.「バッテリーなんか上がったら換えればいい」と言いながら「こいつ,動けなくなりやがって」とクルマを責めるのは反則です.

人間は体調がおかしいと思えば自分で病院に行くことができますが,クルマは自分だけでは動くことができません.ドライバーには愛車の健康状態に気をつかう義務があるというよりも,クルマへの思いやりがクルマを生かすような気がするのです.「情けはクルマのためならず」.自分のためでもあるのです.

■ 免責事項
横山さんは 「hisata さんもリトモと格闘中です」とおっしゃっていましたが,わたしは格闘しているつもりはありません.

いまのリトモは格闘しなければならないような相手ではありません.前項に書いたように「仲良くやっていこう」という相棒です.たしかに車庫入れで3回くらい切り返すと息が切れますがそれは契約の免責事項です.(笑)

世の中には文字通り「格闘する」という表現がぴったりなクルマもあるでしょう.思い通りに走らせるのがむずかしいとか,神経をつかって疲れるとか,トラブルとの闘いもあるでしょう.たしかにそれもクルマと向き合う形のひとつだと思いますが,それでは楽しくないのではないでしょうか.

もっと肩の力を抜いて自然体で付き合えないものでしょうか.

たとえば「リトモで郵便局へ行く」のではなく「いっしょに郵便局へ行こう」.そんな日常的な付き合いのなかでも楽しみは見つかるはず.

リトモはエンジン音よりも排気音よりもウェーバーの吸気音が大きいのです.はじめてエンジンをかけてもらって外に立って聴いたとき「たしかに吸気音は大きいけど低音が響いてこないからあまり迫力がないな」.ちょっとがっかりしたわけです.

ところが運転していると意外に低音も響いてくるので威勢のいい吸気音と相まって気分が盛り上がるのです.ほんとうはこれで排気音が良ければ言うことないのですが実用上そこは我慢します.

また 3,600rpm で発生する最大トルクにあわせてか全体にローギアードなので,低めのギアで引っ張ると元気な加速を見せてくれます.先日「雨の日のリトモ」を体験して以来,フロントタイヤのグリップに神経を注ぐようにしているのですが,乾いた路面でも2速で踏むとグリップが怪しくなってきます.パワーにタイヤがついてきません.

これはリトモがパワフルだというよりもタイヤの寿命が尽きているだけでしょう.タイミングベルト交換後の 4,000rpm リミットが解除されて思い切って走らせてやるためにはタイヤ交換は必須ですね.新しい靴をプレゼントしてリトモが本気を出したらどんな走りを見せてくれるのかいまから楽しみです.