ふと立ち止まって過去の出来事を思い返しているうちに進むべき道が見えてくることがあります.今回はそんなお話です.
- ■ 白日夢
- リトモのアクセルをぐっと踏み込んだときのフィーリングって「どこかで体験したような気がするなぁ」.白日夢だったのでしょうか.
いえ,あれです.BMW M3に乗ったときのことです.あのM3は足回りやマフラー,ROMが換えてあってアイドリングから勇ましい音を響かせていました.直線で踏み込むとストレート6から絞り出されるパワーが路面に伝わり「うわ〜,速い」.
え,まさかリトモがM3に似てるっていうんじゃないだろうなって?
そうなんです.似てるんです.質感というかレベルはもちろんちがいます.でもアクセルを踏み込んだときに受ける音と加速感はどこか似ているのです.そう,荒っぽいところが似ています.「ほら,しっかり前を見て運転しろよ」という感じ.
以下,わたしの独断と偏見です.
リトモは実用車をアバルトがチューンしたクルマで,M3はメーカーがチューンしたものをオーナーがわざと荒っぽくモディファイしたクルマ.メーカーの良心からかMといえども洗練されています.それが物足りないオーナーはあちこちいじるわけです.
ベース車両をくらべると現代のBMWと10年前のフィアット.どちらが優れているかは言うまでもないでしょう.フィアット・アバルトはリトモをより高性能なクルマに仕立て,M3のオーナーは洗練されたクルマを荒く仕立てたのです.
スタート地点もちがえばモディファイのベクトルも正反対なのに行き着いた先はおなじ土俵というのがおもしろいですね.
ただし加速する一瞬のフィーリングは似ていてもそのあとの「止まる」「曲がる」という安心感は雲泥の差があります.M3は乗り心地やフィーリングがどんなにラフでも安定した走りを見せてくれます.一方のリトモはタイヤと相談しながら踏まないとあっさり裏切られそうな不安があるのです.また万一刺さったらリトモは命が危ないという不安もあります.
高性能が大好きならM3がいいです.期待を裏切らないでしょう.だけどわたしはリトモのほうが楽しい.それはなぜでしょう.
- 安いから気軽に乗れる
- おなじクルマに会わない
- 昔のクルマを体験できる
- 高性能もいいけれど疎外感を感じることがある
- ベーシックなクルマには乗りこなす快感がある
早い話が変わり者なのですが,わたしは気が重くなるようなクルマを持ちたくないのです.一生に一度買えるかどうかというクルマを持ったとしても「ぶつけたら一大事」「いたずらされたらどうしよう」なんて心配事まで背負いたくないのです.きっと気が小さいのでしょうね.「気軽に楽しみたい」というのはそういう意味も含んでいます.
もちろん「どうしても乗りたい」となったら買ってしまうと思います.(笑)
- ■ 疲労感
- とくに高速走行したときに疲れる原因はおそらく「音と振動」にあるのでしょう.
4,000rpm も回せばグゥワ〜ンとやかましいし,ガタガタ,ゴトゴトと上下に揺さぶられます.一斉にいろんな音が飛び込んでくるから,なにがどの音だかわかりません.バイクでもオフロードを走る人は腹部を締め上げます.内臓が揺れると疲労につながるからです.さすがにリトモはそこまでひどくはありませんが,リアのリーフスプリングがどこまでショックを吸収しているのか疑問です.
20世紀に自動車が進化していく過程で「いかに疲労を減らすか」もひとつのテーマだったのでしょうね.だから居室部分の静粛性と,路面からのショックを乗員に伝えない快適性が突きつめられていったのです.そしてガソリンエンジン車としては来るところまで来たような気がします.
「刺激を減らすこと」を命題につくられたクルマは,しかし楽しさも削られてしまった部分があります.そう考えると楽しさに疲労はつきものなのでしょうか.スポーツはその典型かもしれません.興味のない人はオリンピックを見ても「どうしてあんなにしんどいことをするんだろう?」と思うし,好きな人は「ああして汗をかくのが気持ちいいんだよな」.
そんなことを言ったら「リトモみたいなクルマには好きな人だけ乗ればいい」ことになってしまいます.もちろんそのとおりなのですが,そこで話が終わったらつまらないですよね.
わたしには夢があります.
汗を流して格闘するよりも,そのクルマのおいしい部分をもっと気軽に楽しみたいのです.No.11 で書いたことと絡みますが「格闘する」という言葉を使うとどうしても肩に力が入ってしまいます.言霊っていいますよね.言葉は本人を縛るのです.ましてや文章に書いたらなおさらです.
楽しむとは「楽(ラク)する」こと.リラックスすることだと思うのです.「愉しさ」と書くこともできるのですがちょっと回りくどい気がするのでここではストレートに「楽しさ」と表記しています.
だから,たとえやせ我慢だとしてもリラックスしていたいのです.傍目には「格闘しているとしか見えない」としても涼しい顔をしていたいのです.このリトモだって前のオーナーよりも楽しく走らせたい.それがわたしのリトモに乗るうえでのこだわりなのです.